FutureTrack。
□第四ノ譚
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「そんな処で何をしていたのです」
桧扇の奇行は今に始まった事ではないし、思いがけない場所から登場するのも、もう慣れた。
それは諦めにも近い。
海棠は眉間の深い皺を指で支え、無駄だとは知りながらも説明を求める。
最も過去一度として納得のいく応えが得られた試しはないのだが。
「こいつがさ、造り物かと思ったんだが。本物の死体だった」
「――っ、当り前です!今直ぐ蝋梅様を下ろしてください」
自身の言動に集中する険悪な視線など介せず、けろりと応える桧扇に白檀の声が重なった。
傍らの小さな躰を抱きすくめ、耳元で名を呼ぶと幼い主は少しの冷静さを取り戻し、短く声を呑み込む。
判り易い挑発にみすみす乗せられるほど、短絡的では無い。
極限まで怒りを溜めた椿の瞳が解けた。
「断ったら?」
敵同士、大人しく座って話し合いなんて性に合わない。
本当は誰も彼も自分を殺したくて仕方が無いくせに。
優しげな表情を歪め、片膝を付いた状態できつく見上げる白髪の青年に桧扇は大きく歩み寄る。
奪い返してみろ、とばかりに屍を片腕で掲げ、レンズ越しの双眸に金色の眼を映す。
「どうするつもりだ?」
「…ぅ…!」
ずしりと重力が増した様な感覚に喉から声を絞り出すも、腰が沈んで立ち上がれない。
蛇に睨まれたというのはこういう事か。
座り込んだ両膝の間に一歩を踏み込み、白檀の襟元を掴み鬱蒼と囁いた。
片手で死体を抱えたままの男の力とは思えない。
それとも白檀が軽いせいなのか、爪先が浮くと苦し気に短く息を絞り出す。
いつもの大そうな武器は持っていなくともあれだけの重い二刀を振るう腕なら細身の男一人、骨をへし折るくらい容易いだろう。
「白檀…!」
とっさに叫んだ椿が駆け寄るも、素早く割って入る人影に阻まれた。
見覚えのある着物の色と、温もりに人物を見上げる。
「腕を斬り落としてでも、取り返す」
ぎらりとした殺意を刃に込め、幸いにも塞がっていた両手に押し当て、枳が言う。
一度抜けば身が断たれるまで気が付かない。
彼が滅多に人を斬らないのは、その威嚇だけで十分戦意を削ぐ事が出来るからだった。
勿論、今回は威嚇が通用する相手では無いのだろうが。
「なんだ。まだ生きてたか、ジジイ」
振り下ろせば両手が落ちると云うのに、離す気配を見せない桧扇は挑発的に白檀を更に締め上げる。
呼吸を奪われた従者がもがく様に、椿が身を硬直させ枳の裾を引いた。