C R E A K Y . C R A D L E
□A C T : 4
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「…ねえ、どこ行くの?」
昨日新しく買ってもらった洋服と靴を纏って、昼過ぎに宿を出た。それから30分程歩き続けている。その間、会話という会話をしていない。もちろん、何処に行くかもよく分からないままだった。半歩先を歩く顔を見上げてみてもその視線に気付く事もしてもらえず、遂に声をかけたのだ。
「フロイトの寺院だ」
黒い瞳がこちらを向いて、静かに告げた。
「…フロイトのジイン?」
「ああ。…もうすぐ着く」
「………ふうん」
――妙な不安を感じた。
あの嵐の夜から5日経っていた。少女が目を覚ましたのはその翌日の昼過ぎの事で、そこは見知らぬ部屋のベットの上だった。側にはあの夜の男がいた。
「もう、大丈夫だ」
最初に言われたのは、この言葉だった。ただそれだけの事なのに、とても安心した。そして大声で泣いた。
あの日食べたシチューの味は4日経った今も覚えているし、太陽の眩しさもベットの暖かさもとても心地良い。
男は簡単ではあったが、食事はたっぷり作ってくれるし、怪我の手当てもしてくれた。真っ黒な髪に真っ黒な目。最初は少し怖くもあったが、時折見せる笑みがとても優しく、だんだんと安心感を覚えてきた。
だが、男の名前は知らない。
「名前は、何て言うんだ?」
「……」
何日か経った朝時、男から急に名前を尋ねられて少し驚いた。
「自分の名前だ、分かるだろ?」
「うん……フィーネ……」
「そうか。いい名前だな、フィーネ」
男はフィーネにそう言うと視線を落とし、新聞を読み始めた。
「ねぇ」
「ん?」
男がこちらを向く。黒い瞳に自分の姿を捕らえられ、思わず俯く。
「……ううん…何でもない…」
男はコーヒーを一口飲むと、再び新聞に視線を戻した。フィーネは俯いたまま、机に並べられた朝食を口へ運んだ。
何故か、名前を尋ねられなかった。尋ねてはいけない気がしたのだ。
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