C R E A K Y . C R A D L E

□A C T : 2
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 古くびた大きな扉を前に、ディースは深く深呼吸をする。
握り締めたメモには確かに文字が書いてあるのだが、その文字はまるで絡まった紐のようで非常に読みづらい。ディースは目を細めてその文字を解読していた。

「誰だ」
 扉の向こうから威嚇するように声が飛んできた。ディースは慌ててメモを読み上げる。
「クロ、クロス……貿易会社の…」
 読めない。
「は?」
「あ、いや。クロスデック貿易会社のトム・レスコードだ」
 読めた、というより解読できた。ディースはひとまず安堵する。ガチャッと鍵を外す音が聞こえた後、目の前の扉がゆっくりと開かれた。中から痩せた男が顔を出す。男はディースの姿を確認するや否や下品に歯をみせて笑った。
「さ、どうぞ。オニイサン」


 2日前、第3地区の外れにある広野を1台の車が走っていた。車は広野に伸びる道をひたすら進む。しばらく行くと、道の先に白い屋敷が見えた。車はその屋敷の門を潜り、玄関の前で静かに停車した。運転席から黒いスーツを着た使用人らしき男が降りてきて、後部座席のドアを丁寧に開く。ディースはその使用人にどうも、と一言告げて車を降りた。
 2時間くらいだろうか。いくら高価なシートといっても、さすがに長時間座り続けているのは怠い。ディースは両手を天高くに伸ばして固くなった体をほぐした。

 今回の仕事はケニーの常連客からの依頼だった。この依頼人から仕事をもらう時は、いつもこうして迎えの車が用意されて依頼人の自宅まで訪れる。今回も例外ではなかった。
「ケニー様、旦那様がお待ちです。どうぞ中へ」
 いつ来ても清楚な屋敷だ、と感じる。通された客間もしつこい飾りなどなく、白で統一されている。ディースには少し落ち着かない環境だった。
「やあケニー、わざわざ済まないな」
「いや、高級な車に乗れる機会なんてそうない。満喫させてもらってるさ」
 客間に入ると、部屋の中心にあるテーブルの横で正装した若い男が『ケニー』を待っていた。
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