□反対≠嫌
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「ねえ兄サマ、嫌だったら止めてね」
 そう言ってモクバは瀬人の両頬を掴んだ。
「なんだ…?」
「いいから…ほんと嫌だったら殴ってでも…いや殴られるのはオレが嫌だな…
 デコピンしてでも止めてね」
「だからなんなんだ」
 疑問には答えず、目を閉じて顔を近付けてくるモクバに、瀬人はなんとなく察して自分も目を閉じた。
 唇が触れていたのは2秒ほど。
 目を開けるとそこには驚いたような顔をしたモクバがいた。
 何故キスをされた自分ではなく、した方のモクバが驚いているのかは疑問だが、瀬人は他の質問をすることにした。
「ドラマか何かの真似事か?」
「兄サマなんで止めないの?」
 何故今日のモクバは質問に答えないのか。反抗期の始まりだろうか。
「お前の出した条件は『嫌だったら』だ」
 瀬人は自分の疑問は置いといて、モクバの質問に答えてやることにした。
「条件が例えば『反対なら止めろ』だったら止めていた」
「チューするの嫌じゃないけど反対ってこと?」
「そうだ」
「じゃあもしオレが兄サマのこと好きって言っ…」
「反対だ」
 全て言い終わらぬ内に答えを返されたためかモクバが軽く頬を膨らます。
「いいかモクバ、何の影響か知らんが日本には兄弟で接吻する文化など無い。
 こんなことを将来思い出して黒歴史というやつにしかならん」
「黒歴史は嫌だなぁ…」
「ならばもう妙なことは考えんことだ」
「はーい…」
 またもや頬を膨らませ、部屋を出ていくモクバの背を瀬人は複雑な思いで見送った。


 弟にキスをされて嫌ではないと思ってしまったこと、止めようとすらしなかったことを少し後悔する。
 そして今日の出来事をモクバが早く忘れることを強く願った。


 
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