□夕焼け
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「うわすっごい…見てみて、夕焼けすごい綺麗」
 沈み行く太陽が雲を紫やピンクに染め、川面をオレンジに輝かせる風景に桜庭は思わず足を止めた。
「そうだな」
 隣の進も歩を止め西の空へ目をやる。
「進でも綺麗とか思うんだ」
 冗談半分に言う。
 もちろん残り半分は本気だ。風景を楽しむだとか美しいものを愛でることなどこの男には似合わない。
「大概の人間が美しいと感じるものは俺でもそう感じる。
 夕焼けや草花、虹、お前」
「進も普通の人間でなんか安心した…ってお前って…俺?」
「お前…桜庭のことだ」
「………俺ってどういう風に綺麗?」
 顔は夕陽に向けたまま、ちらりと目線だけを進に移す桜庭の頬が赤いのは太陽光のためか。
「どういう風と言われてもな…」
「じゃあ俺のどこが綺麗?」
「特に眼輪筋と大頬骨筋」
 桜庭は一瞬、キョトンとした顔をした後、小さく吹き出した。
「ははは!やっぱ進は進だな」
「?」
 クスクスと笑いながら視線を夕日に移す。
「もうちょっと夕焼け見ていようか」
「そうだな」
 
 
 
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