金糸雀
□11話
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前回までのあらすじ
跡部家別邸に新しくやってきたシェフとメイド
その二人の歓迎(という名のドッキリ)は無事成功し、本題のパーティーがスタートした
「…って今まであらすじなんかやってへんのに、今更こんなんいらへんやろ…」
「忍足、誰に突っ込んでるの?」
「ん〜?なんでもないで、佐伯」
仲間の輪から外れ別の場所を見て呟いていた忍足は、佐伯の声に瞬時に笑顔で振り向いた。
リビングでは、皆がそれぞれに食事をし、話をしている。
昼からパーティーなどしていいのかという突っ込みはこの際しない
それほどに、みんな楽しそうだからだ。
自分の席に戻った忍足は、切原や鳳と楽しそうに話す杏を見てどこか安心した。
それは跡部も同じ気持ちらしい。
「…あの娘、やっと普段通りになってきたみたいだな」
「なんや、跡部。あのお嬢さんのことよう知ってるんか?」
「いや、知らない。だが、手塚の所にいた時より表情がある。あの時は…そうだな。人形のようだった。家族がいなくなり、頼る人間もほとんどいないに等しい。絶望の淵に立たされていたようだった」
「そっか…なんか親近感湧くなぁ」
優しげに眼を細め、少女を見やる。
何を言われたのか、切原に詰め寄る杏。
切原はいたずらっ子のような笑みであしらっている。
思わず、昔の自分を…否、自分たちを重ねてしまった。
そんな忍足をこっそり見つめる人物が一人
従兄弟の謙也だ。
ジュースを飲みつつ、自分の知らない彼を観察する。
あの時とはまるで違う従兄弟
これでよかったと、ようやく安心できた。
「…謙也?何見てんねん」
「いや、侑士格好良くなったな〜思て」
「なんやねん、それ」
視線に気づいた忍足にとぼけて返す。
だが、忍足は意外そうに、訝しげに謙也を見ただけ。
そのとき、来客を告げるベルがなった。
立ち上がりかけた幸村を、謙也が止める。
「俺が出たる」
「でも…」
「俺が客ってか?そんなん聞かんで。折角のパーティーや、たまには思いっきり楽しんだらええやん」
「…そうだね、お願いするよ」
謙也はその答えに満足そうに頷いて、席を立った。
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