高橋宏臣
同じクラスに同じ姓がもう1人、高橋雄介がいるから男女問わずヒロ、やヒロくん、と名前で呼ばれることが多い。
でも――――
彼女に名前を呼ばれたことがない気がする。
もしかしたらただの思い込みかもしれない。
でも、意識すれば余計に気になるもので。
俺は、付き合ったときからすぐに由希、と呼び捨てなのに。
「ねぇねぇ」
「…」
「ねぇ、」
「…」
「ねぇっ!」
寝転がって本を読んでいる俺を呼ぶ由希。
本当はさっきから同じ行ばかり何度も読んでいて、内容なんか頭に入ってこない。
名前を呼んでほしくて無視し続けていたら肩をつつかれた。
「…なんで無視するの…」
「俺の名前知ってる?」
「え、…うん。」
「何?」
「…た、高橋くん。」
はぁ〜、
何だよ、彼氏を苗字でくん付けって…
「俺のこと何て呼んでんの?」
「…」
「雄介のことは?」
「…雄介」
確かに雄介はみんなに呼び捨てで呼ばれてるけど…
どうして俺のことは名前で呼んでくれないんだよ、と問えば
「恥ずかしい…」
膝を抱え、それに真っ赤な顔を埋める可愛い由希。
恥ずかしがることをさらにさせたくなるこの本能は何だろう。