小説
□365本の花言葉
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「夏目さん、包みが届いていますよ。」
「ボクに?誰から〜?」
「蜻蛉様です。」
「蜻たんから?なんだろ〜。」
愛しの人は放浪癖がある。
なかなか会えないそんな人からの贈り物に、胸が踊らないわけがなかった。
そーたんが指差した場所を辿ってみると、大きめの箱が置いてあった。
〜365本の花言葉〜
箱を自室に持ち帰り、机の上に置く。
見た目とは裏腹に、大分軽いものだった。
「箱の中身はなんだろな〜♪」
いつかのノリでパカッと開けてみる。
そこにはたくさんの薔薇が入ってた。
一緒に入っていたメモに『数えろ』と書かれてある。
「流石蜻たん、こんな量を数えろなんてSだよね〜。」
そう言いつつ薔薇を取り出していく。
数え間違えないように5本ずつに束ねて床に並べた。
「多いよ〜、ボクあんまり体力無いのに〜。」
5本ずつにしたのは失敗だったかもしれない。
箱と置く場所の行き来がなかなかハードだった。
でも蜻たんからまさか鞭以外をもらえるとは思っていなかったので、嬉しさが勝って休むより薔薇を数えていく。
段々と底が見えてきた時、紙が貼られているのに気付いた。
『どうだ、疲れただろう!わかってて数えさせる私!流石S!しかしこれを見た貴様はやはりドM!』
などと書かれている。
「数えさせといてこんだけとかないよねー?」
がさがさととりあえず薔薇を全部出してみた。
すると、下の方にもう一枚の紙が見えた。
『問題。薔薇は何本だったでしょうか。正解の本数が書かれているシールを捲れ。』
と書かれている。
ここにきて5本ずつにしたのは正解だと思った。
残りをきっちりまとめた後、5本の束の数を数えていく。
結果、73束だった。
「てことは…んーと、365本だねー。」
一年の日数と同じだ〜なんて思いながら、指定されたシールを捲る。
そこには、
『薔薇の365本の花言葉:毎日愛しくてたまらない』
と書かれていた。
「…何これ…。」
思わず声が漏れる。
これを言うためにだけに、わざわざ薔薇を送ってきたのだろうか。
「蜻たんのばか…。」
蜻たんは何にもわかってない。
確かに蜻たんからの貰い物は嬉しい。
でもこんな甘い言葉を吹きかけて、それでお仕舞いなんて卑怯だ。
こんなこと言うくらいなら早く帰ってきてほしい。
本当はすごく寂しいのに。
本当はもっと傍に居たいのに。
「…ま、蜻たんにそれを言ったところで何にも変わんないけどね〜。」
どこか自分に言い聞かせるように呟いた。
薔薇を片付けなければと思い箱を拾う。
と、その時、先ほどのシールがもう一枚捲れることに気付いた。
今度は何だろうと思い捲ってみる。
『ここまで気付くとは流石だな!きっと薔薇だけでは満足出来ないドMな貴様には、私がきっちり調教しに行ってやるから待っていろ!』
なんてことが書かれていた。
「これってつまり…。」
期待しても良いんだよね?
なんて考えてる途中に、インターホンの音が響き渡った。
まったく本当に、悟りの力でも持ってるんじゃないだろうか。
ボクは緩む頬を抑えつつ、早足でドアの方へと向かった。
END