小説
□香りに乗せて
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「そーたーん、今日の夜飲まない〜?」
珍しい夏目さんからのお酒の誘い。
僕はそれを快諾し、ラウンジにて彼を待つ。
少し時間が空いたので、冷蔵庫から材料を見繕い、簡単なつまみを作ることにした。
〜香りに乗せて〜
「うわ、これおいしー。流石そーたん。」
「ありがとうございます。」
つまみは、塩が少し利いたビスケットにトマトとチーズとバジルを乗せたもの。
トマトはオリーブオイルで少し炒めたおいた。
普段少食の夏目さんが進んで食べてくれるのを見ると、余程気に入ってくれたのだと安心する。
「今回は少し変わったお酒のようでしたので合うか不安でしたが…。」
「これ?なんか蜻たんが前に部屋に来た時に置いてっちゃったんだけど、本人またどっか行っちゃったし。」
期限切れそうだったから、と夏目さんは付け加えた。
赤、黒、白の三種類のボトルに入った酒。
どれもチョコレートを使用しているものらしい。
「どれから飲むー?」
「夏目さんが飲みたいものを。」
「んー…じゃあ白からにしようかなっ☆」
パキパキっとキャップを開け、少しとろみのある液体をグラスに注ぐ。
甘い香りが漂った。
「カンパーイ☆」
夏目さんがカチンとグラスをぶつける。
そして二人して酒を口に含む。
「うん、おいしー。」
「そうですね。少し甘過ぎる気もしますが。」
そう言うと夏目さんは、そう?と返した。
そしてまた、つまみに手を伸ばす。
緩慢な動きで口に運ぶ夏目さんの仕草は、どことなく色っぽかった。
こちらの視線に気付いたのか、つまみをひとつ摘まんでこちらに持ってくる。
「そーたん、あーん。」
言われるままにそれを口に含むと、夏目さんは満足そうに笑った。
それが可愛らしくて、思わずキスをひとつ落とす。
今度はクスクスと、少し可笑しそうに彼は笑った。
「そーたんかわい〜。」
「夏目さんの方がお可愛らしいですよ。」
「ふふ、ありがとー。」
そうして今度はお酒に口を付ける。
チョコレートを使用してるだけあって、かなり飲みやすい。
甘過ぎる、と思うが、それが少しクセになりそうだ。
夏目さんのペースも早い。
そしてそれに比例して、つまみも無くなっていく。
ひとつ、またひとつと消え、皿の上は空っぽになった。
「そーたん、おかわりー。」
「この時間に食べ過ぎるのは良くありませんよ。」
「でもおいしーから、お願い。」
「ですが……っ…。」
明日に胃もたれがきても知りませんよ。
そう続かせるはずだった唇は塞がれて。
ちゅっと軽く音を立てて離れた夏目さんを見ると、悪戯が成功した子供のような顔をしていた。
「これでお願いっ♪」
ふふっと嬉しそうに笑う。
頬は赤みを帯びていて。
気になってボトルを見ると、中々のアルコール度数。
照れているだけではないことがわかった。
チョコレートに誤魔化されていたが、夏目さんは既に酔っているようだ。
まだ2杯だったのですが。
「そーたん早く〜。」
「わかりました。待っていてください。」
催促の声で我にかえる。
キッチンに向かい、オリーブオイルの蓋を開けた。
「夏目さん、トマトは生でも構いませんか?」
さっき作ったものは火を通したものだったが、オイルを使用しているため胃への負担が大きいと考えた。
手間も省けるし、生のトマトで良いか確認する。
…が、一向に返事は返ってこない。
「夏目さん…?」
座っていたソファを覗き込む。
すー…と、規則正しい寝息の音。
夏目さんはソファに仰向けになって寝てしまっていた。
「まったく…人に作らせておきながら…。」
そっと額にキスを落とす。
部屋には、チョコレートとオリーブオイルの香りが漂っていた。
END