小説

□香りに乗せて
1ページ/1ページ



「そーたーん、今日の夜飲まない〜?」

珍しい夏目さんからのお酒の誘い。

僕はそれを快諾し、ラウンジにて彼を待つ。

少し時間が空いたので、冷蔵庫から材料を見繕い、簡単なつまみを作ることにした。







〜香りに乗せて〜







「うわ、これおいしー。流石そーたん。」

「ありがとうございます。」

つまみは、塩が少し利いたビスケットにトマトとチーズとバジルを乗せたもの。

トマトはオリーブオイルで少し炒めたおいた。

普段少食の夏目さんが進んで食べてくれるのを見ると、余程気に入ってくれたのだと安心する。

「今回は少し変わったお酒のようでしたので合うか不安でしたが…。」

「これ?なんか蜻たんが前に部屋に来た時に置いてっちゃったんだけど、本人またどっか行っちゃったし。」

期限切れそうだったから、と夏目さんは付け加えた。

赤、黒、白の三種類のボトルに入った酒。

どれもチョコレートを使用しているものらしい。

「どれから飲むー?」

「夏目さんが飲みたいものを。」

「んー…じゃあ白からにしようかなっ☆」

パキパキっとキャップを開け、少しとろみのある液体をグラスに注ぐ。

甘い香りが漂った。

「カンパーイ☆」

夏目さんがカチンとグラスをぶつける。

そして二人して酒を口に含む。

「うん、おいしー。」

「そうですね。少し甘過ぎる気もしますが。」

そう言うと夏目さんは、そう?と返した。

そしてまた、つまみに手を伸ばす。

緩慢な動きで口に運ぶ夏目さんの仕草は、どことなく色っぽかった。

こちらの視線に気付いたのか、つまみをひとつ摘まんでこちらに持ってくる。

「そーたん、あーん。」

言われるままにそれを口に含むと、夏目さんは満足そうに笑った。

それが可愛らしくて、思わずキスをひとつ落とす。

今度はクスクスと、少し可笑しそうに彼は笑った。

「そーたんかわい〜。」

「夏目さんの方がお可愛らしいですよ。」

「ふふ、ありがとー。」

そうして今度はお酒に口を付ける。

チョコレートを使用してるだけあって、かなり飲みやすい。

甘過ぎる、と思うが、それが少しクセになりそうだ。

夏目さんのペースも早い。

そしてそれに比例して、つまみも無くなっていく。

ひとつ、またひとつと消え、皿の上は空っぽになった。

「そーたん、おかわりー。」

「この時間に食べ過ぎるのは良くありませんよ。」

「でもおいしーから、お願い。」

「ですが……っ…。」

明日に胃もたれがきても知りませんよ。

そう続かせるはずだった唇は塞がれて。

ちゅっと軽く音を立てて離れた夏目さんを見ると、悪戯が成功した子供のような顔をしていた。

「これでお願いっ♪」

ふふっと嬉しそうに笑う。

頬は赤みを帯びていて。

気になってボトルを見ると、中々のアルコール度数。

照れているだけではないことがわかった。

チョコレートに誤魔化されていたが、夏目さんは既に酔っているようだ。

まだ2杯だったのですが。

「そーたん早く〜。」

「わかりました。待っていてください。」

催促の声で我にかえる。

キッチンに向かい、オリーブオイルの蓋を開けた。

「夏目さん、トマトは生でも構いませんか?」

さっき作ったものは火を通したものだったが、オイルを使用しているため胃への負担が大きいと考えた。

手間も省けるし、生のトマトで良いか確認する。

…が、一向に返事は返ってこない。

「夏目さん…?」

座っていたソファを覗き込む。

すー…と、規則正しい寝息の音。

夏目さんはソファに仰向けになって寝てしまっていた。

「まったく…人に作らせておきながら…。」

そっと額にキスを落とす。

部屋には、チョコレートとオリーブオイルの香りが漂っていた。







END

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ