小説
□涙の行方
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声が聞こえた。
いや、声というよりか嗚咽に近い。
誰か泣いているのだろうか。
確かめるべく廊下の角を曲がってみると、思いがけない人物が目に入った。
〜涙の行方〜
「夏目さん。」
「っ…あ、そーたん!こんな所で何してるのっ☆」
声をかけてみた。
そう、泣いていた本人は夏目さんだった。
すぐにいつもの笑顔になる。
隠し切れない部分なんて沢山あるのに。
「どうかされたのですか?泣いていたように思いますが…。」
「え〜違うよそーたん、これは練習だよ〜。そんなに泣くの上手だった?」
ほら、とポケットから目薬を覗かせる。
あなたはいつもそうだ。
辛いはずなのに、いつもそうやって笑顔を浮かべて。
そんなあなたを見る度に、僕はたまらなくどうしようもない感覚に襲われるんです。
「わ…そ、そーたん…?」
自分でもわからなかった。
でも気付いたら夏目さんを抱き締めていて。
ぎゅう…と力を入れると、思っていたよりも夏目さんの体が細いことに気付いた。
「…反ノ塚さんと何かあったんですか?」
ピクリと夏目さんの体が反応した。
きっと図星だろう。
「別に何も無いよ〜。」
「嘘です。」
「嘘じゃないよ〜、そーたん酷いっ。」
「嘘です。」
ぐいっと顔を合わさせる。
相変わらず夏目さんは笑顔のまま。
「何年一緒に居たと思ってるんですか。誤魔化せると思わないでください。」
そう言うと、夏目さんは少し苦笑いになる。
「…でも、そーたんには関係無いよ。」
「そうかもしれません。でもあなたが悲しむ理由が知りたいんです。」
僕は何を言ってるんだろうか。
悲しむ理由が知りたいなんて、変な奴だと思われたかもしれない。
それでも構わない。
知りたい。
「…レンレンにね…振られちゃったんだぁ…。」
へらっとした、だけど悲しみが混じった顔で夏目さんは言ってくれた。
「興味無いって。女にも興味そんなに無いのに、男のお前に更に興味出ないって。」
「…夏目さん…。」
「どーしてそーたんがそんな顔するの?」
内容を話す夏目さんは、やっぱりまだ僕に気を遣ってくれていた。
そんなに落ち込んでないように取り繕っている。
それがもどかしくて。
僕にくらい、付き合いが長いのに、素の自分を見せて欲しかった。
そんなことを思ってる僕は、きっと難しい顔をしていたんだろう。
もう一度、強く夏目さんを抱き締める。
「泣きたい時は、泣いてください。」
「…そーたんやさしーね…。」
ぽすっと肩に夏目さんの顔が埋まる。
「ホントは告白なんてしないつもりだったんだよ。返事も視えてたし。でも気持ちが抑えられなくて…実際言われたら、結構キツかった…かな…。」
ぎゅ…と夏目さんがスーツにしがみついてきた。
肩を震わせながら、僕のスーツに染みを作っていく。
あぁ、やっとこの人の素を見ることができた。
自分にしか見せてくれてない顔がある。
それがすごく嬉しかった。
…夏目さん、やっぱり僕はあなたが好きみたいです。
そっと髪の毛に、気付かれないようにキスを落とした。
END