渚音はただ、なんとなくぼうっと考えていた。
 (ここですべてが終わるなら、それもいい。)
 渚音は床に横たわって、冷たく鈍い銀色の床を見つめた。
 無機質な感じの地下に逃げられるようなところは、もうどこにもなかった。侵入に失敗して、この牢獄のような生気を感じない地下に追いやられた。腕にからめられた粘着性のゴムから、びりびりと電流が流れ腕が麻痺する。電気は徐々に強くなっているようで、腕から肩にまで電気が流れてきた。
 コツコツと一人分の足音が聞こえてくる。渚音は体を起こしてその音がする方を見た。徐々にやってくる、渚音の敵…。
「やはり、我々が見込んだだけの人間だ。」
 黒スーツに黒ズボン、黒い靴と黒に身を包んだ男は、渚音を見下して淡々とそう言った。男はがっちりとした体格でスキンヘッド。男の顔はお世辞にも整っているとは言えなく、ごつごつしたような厳つい顔だった。
「…最後には、こうして捕まったけどね…!」
 渚音は上半身を起こしてキッと男をにらみ、吐くように言い放った。渚音は手を後ろで縛られており、自由に身動きできなかった。電流は今も流れて、それは上半身に流れていく。渚音は辛うじて、意識を保っていた。
「そう、長く続いたゲームも、ここで終わり。我々の勝ちだ。渚音君には我々の言う通りにしてもらおう。」
「…何をさせる気?」
 男はニヤリと薄気味悪く笑った。
「我々の弟の妻になってもらおう。」
 渚音は何も答えず男を見た。
「電流が痛いだろう?その痛みから解放されたくはないかね?」
 男は痛みに耐える渚音を嗤った。
「では、その電流の電源を切って、我々と話をしようか。」
男はポケットに手を入れ、ボタンのようなものを押した。すると、渚音の体を流れていた電流が止まったが、渚音にはまだわからなかった。
「我々が渚音君から受けた被害額、わかるかね?」
「……たった、一人の女が強大な組織にした被害額?」
 渚音はくすりと嘲るように笑った。
「君のような人間が何万人いようと、その額には届かない。幸い、君に盗まれた情報については先に手を打って情報漏洩しないよう圧をかけたがね。」
 渚音は体の電気が流れなくなったことを自覚できなかった。まだ、麻痺しており感覚が戻らない。立ち上がることもまだできない。

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