うたプリ

□良い夫婦の日に
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「今帰った」

いつもの古臭いアパートのドアを開ける
外とは違う暖かさに、冷たくなっていた手先がじんわりと温まる

『おかえり蘭丸』

猫の鳴き声と共に、聞こえてきた自分の伴侶の声
灯はパタパタと俺に近寄り、ぎゅうっと抱き着いて来た

「おい」

『外寒かっただろうから、温めてまーす。にしてもホントに体冷たいね』

ぺたりと俺の頬に手を当てる
結構な身長差のため、灯は背伸びをしていた
その仕草がとても可愛いと心の中で叫ぶ

『今日はあったかい物にしたから、体が温まるよ。取り敢えず、先にお風呂入ってきなよ』

ニコリと笑う灯は台所へとひきかえそうとする
なんとなく離しがたくて、腕を掴んで彼女を自分の腕の中に収める

『っ、蘭丸?』

「お前抱きしめてればあったまる」

『んな馬鹿な』

くすくすと笑う動作さえも愛しくて、本当に離したくなくなる

「一緒に風呂入るか」

『うん……えっ!!?』

「よし、じゃあ行くぞ」

『ちょっと!それは反則…!!』

ヒョイッと横抱きをすれば、ばたばたと動くことは無くなった
なんだかんだ嬉しいと顔に出ているのを見、自然と口元が緩む

「風呂でのぼせんなよ?」

『っ…!!!?』

そう言うと灯の顔は赤く染まった
脱衣所まで来ると、また暴れ出す
ほんと、落ち着きがねェな

『やっぱりだめっ…!!』

「お前、往生際がわりぃぞ」

『だって…!!』

「いいから、早く脱げよ」

そう言って俺は灯の服に手をかけ――――…




「はい、そこまで」

「うがっ」

ゴツンと見た目に似合わずとても重たい一発を蘭丸に入れる藍

「まったく…ほんとろくな事考えないね」

「えぇー……じゃあ、アイアイはそんなこと微塵も考えないワケ?」

「当たり前でしょ。妄想なんてする訳……」








「ここがこうで、あれがこれで、そこがあそこで、これがここで…」

『藍?』

「ん?あぁ、どうしたの灯」

『部屋に籠ってからだいぶ経つから様子を見に…』

そう言って部屋に入ってきた灯は近くの折り畳み式の椅子を持って来て、僕の隣に座った
そういえば曲のPV編集に没頭して、だいぶ時間がたっている

「もうこんな時間か…灯の方は仕事片付いたの?」

『曲の打ち起こしだけですからねー』

よいしょっと言って、僕が今まで作業していたパソコンの画面を覗き込む
暫らく見た後、彼女は改善点をいくつか挙げてくれた
本当に良く出来た子だとおもう

『……』

「灯?」

『藍、疲れてない?』

「…?」

『最近、ずっと動きっぱなしでろくにメンテ出来てないでしょ?体に負荷かかってそうで…』

彼女は心配そうに僕を見た
確かに、少し体が重く感じる事はあったけど、疲れてるなんて言われるとは思わなかった
彼女だけが僕を心配してくれている
そう思うだけで頬が緩む

「灯」

『なに…わっ!?』

灯の腕を引っ張り、自分の足の上に座らせる
逃げられない様にぎゅっと抱きしめる

『あ、藍っ…!!』

「これが終わるまで、このまま君を充電させて?」

『充電って…もう…』

困ったように、でも嬉しそうに笑う君
少し意地悪したくなって、耳元で

「仕事が終わったら、たっくさん楽しい事…シよ?」

『っ…!!!』





「って、アイアイも結局妄想に浸ってるじゃないのっ」

「っ!!」

藍はハッと我に返る
これでは他の二人を叱れなくなってしまった
そして、ここまで未だに騒ぎ立てない者が一人

「つーかさっきからカミュの野郎が一言もしゃべらねぇんだが」

「確かに」

「ねぇねぇミューちゃん!ミューちゃんはどうなの!?」

「直接聞くのかよ」

ここまで来たら全員聞いてしまえと思ったのか嶺二は率直に聞く
一方カミュは、嶺二を一瞥し、砂糖が大量に入った紅茶を置いた

「くだらんな」

「えぇっ!?ミューちゃんが一番そう言う事かんがえてそうなのに!!」

「ふん…あやつとは今や夫婦同然の生活をしているからな。妄想や空想などする必要などないわ」

「「「Σ!!?」」」

「ちょっ、ミューちゃんそれどういうこと!!?」

「理解不能…大体、カミュは寮に住んでるんじゃないワケ?」

カミュの問題発言に三人が動揺していると、ガチャリと会議室の扉が開く音がした

『お前ら、廊下まで響くほど何騒いで…』

「「「マイマイ/灯!!」」」

『えっ』

突然、ずいっと三人が自分に寄ってきて、灯は少なからず後ずさる
その後ろではまた、カミュが紅茶を飲み始めた

「マイマイ!!ミューちゃんと夫婦同然の生活してるってどういうことっ!?」

『はぁっ!?』

「おい灯、正直に吐け」

「どういうことか、説明してもらうよ」

何が何だか分からない灯だが、一番に思う事がとりあえず距離が近いという事だった
だが、今そんな事言っても聞き入れそうな雰囲気ではないので、おずおずと返答を返す

『カミュと…生活…………あぁ、まあ、一緒には住んでるけど』

「「「はぁっ!!?」」」

『ほんと、さっきからなんなんだよ…時間がないから早く打ち合わせさせてくれ』

「ちょっと、もうちょっと詳しくきかせてよっ!?それじゃ納得できない!!」

ぎゃあぎゃあと騒ぐ三人についにイライラが沸点に達したのか、灯は切ろうと思っていた林檎を片手で潰してしまった
その動作にびくりと三人が肩を揺らした

『…テレビで結婚願望の話してるぐらいだったら、嫁を一生養えるぐらい働きやがれ。独身野郎どもが』

「「…はい」」

「……おう」

「………(本当に、こやつを怒らせると面倒だ)」

取り敢えず、今の発言で、彼女の中の結婚相手に自分たちが入っていないことを悟ったカルテットたちであった


彼らの奮闘記はまだまだ続く…



END
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