うたプリ

□TRUE WING
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セシルが不在のカミュの部屋
時計の針はそろそろ次の日を指す
それなのに部屋は暗く、月明かりが窓から差し込むだけ
その光を浴びて、灯の右目はキラリと赤い月のように輝く
普段は眼帯で隠し、見える事のない瞳は造りモノの様に冷たい―――――…

『伯爵様』

少女とも女性とも青年ともいえない、複雑な声音が名を口にする
彼はそれが気に入らないという様に眉をひそめる

「カミュでいいと何回言っている。今はプライベートだろう」

『…カミュ、今回の帰省何か異常な事は?』

「とくには無かったな…それと今回も収穫はなかった」

『そうか…』

灯はふぅ…とため息を吐く
カミュから見てその顔は疲労に満ちていた

「灯、寝れているか?」

『え』

ギクリ。そんな効果音が付く位に彼女の肩は強張った
ポーカーフェイスが上手いようでそうではない彼女に苦笑する
呆れを含んだ笑いに彼女はむっと怒ったように眉を寄せるが、本気で怒っているわけではなかった

『正直、寝れてない…最近になってまた夢を見るから』

「…そうか」

今度はカミュがため息を吐く番だった
だが、その顔も一瞬
次に見た時にはいつもの無愛想な顔に戻っていた

「灯、俺とお前が古くからの友であり  であることを悟られぬようにな…」

『御意に…全ては   のために』


















自室から出て、廊下を歩いていると前方には翔が走って来ていた
確か、ケン王の撮影に出るとかだった気がする
彼の手にはやはり台本が
それにとてもうれしそうだ
翔は余程嬉しいのか俺に気付かずに横を素通りし、皆が待つホールへと向かって行った

『夢に熱中出来るっていいな…』

春歌にST☆RISHの事をざっくり教えてもらった際、来栖翔という男は日向龍也に憧れてアイドルを目指したのだという
その龍が主演を務めるケンカの王子様は翔にとって憧れのドラマ
いつか出たいという、共演したいという、夢
ST☆RISHの皆を見ていると自分が惨めになってくる

(俺は今、夢を追いかけることが出来ずに作曲家やってるからな…)

寿「あれ、マイマイ。どうしたの?」

翔の背中をずっと見ていると、後ろから声をかけられた
見なくても分かる。嶺二だ
徹夜の仕事帰りだろうか、少し眠そうだ

『お疲れ様?』

寿「うん、ありがとー。いやー、今日はハードだったよん。ランランがほんっと自由でさーぁー」

『あぁ、まいラスの収録か。そういえばこの曜日だったっけ』

最近寝てないからか、いつもより頭が回らない

寿「マイマイっ♪」

『っ…いきなり近づくなよ…』

ずずいっと顔を近づけた嶺二の瞳は何かを思いついたかのようにキラキラしている
いや、俺にとってその目は嫌な予感しかしねぇんだけど

寿「1時間分だけ、膝貸してっ☆」

『……………はぁぁっ!!?』

寿「お疲れなれいちゃんを気遣って…ねっ?」

『アホか。部屋で寝ろ。そしてそのまま永遠の眠りにつけ』

寿「いつも以上に毒舌が酷いよ…って、マイマイどこ行くの…!?」

『カミュんとこ。セシルの進歩見て来る』

これ以上嶺二に関わったら、本気で膝枕させられそうなので早々に退散する事にする
今日も晴天。春の風は俺の眠気を誘ってくる
もし嶺二に膝を貸して寝てしまったらと思うと、ぞっとする
最近はいい夢をみないから、うっかり寝言で変な事を口走ってしまわないか心配なのだ

(それだけは、絶対に嫌だ)

あんな話、誰にもしたくないし出来るわけない
振るえそうになる手をぎゅっと握りこんで、目指すはカミュとセシルの部屋
できればセシルはいて欲しくないのだが、まあいたらしょうがなく諦める事にしよう

(俺が"私"で居られるのは今の所、彼しかいないわけだけど)

部屋のドアを3回ノック。返事はなし
けれど中に人はいる
セシルがいるならば何かしらの声は聞こえるはずだ
けれど何も聞こえない
つまり、今現在この部屋にはカミュしかいないわけだ

『失礼します』

ドアを開けて中に入れば、やはり彼はそこに居た
ソファに腰掛け、趣味の読書をしている
私が入って来たのを確認して、本にしおりを挟んで閉じる

カミュ「自由に使え。俺が見張っている」

『…いつもありがとう』

カミュ「ここに来てからは、あの家と同じ生活は出来んからな。仕方がない。それに、今に始まった事では無いだろう」

カミュはフッと少し笑って、私の頭を少し乱暴に撫でる
お疲れと言うようなこの撫で方は昔から変わらない
私は髪留めを外して、いつも彼が使っているベッドに潜り込む
こっちの生活に慣れきって、もうタオルを巻く気にはなれなかった

『…2時間』

カミュ「あぁ」

目を閉じれば自然と睡魔が襲ってくる
私の重みで沈んだベッドの心地はとてもやわらかで余計に睡魔を促す
いつもいつも甘えてばかりだと思う
本来は守るべき彼であるはずなのに、これでは私が守られている
私にとっての、今の生きる糧はきっと彼だ

(もっと……強く)

全て守れるような強さが欲しい










そう










全てを








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