水平線のその先へ
□参
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海岸に打ち上げられていた人はトラフェロガー・ホーというらしい。
随分と言いにくい名前をしていると思う。
しかも、どこかで聞いたことのあるようなないような名前。
よくよく見れば、目の前で魚を食べているこの顔もどこかで見たことがあるような、ないような・・・?
私は人の名前と顔を覚えるのがすごく苦手だ。
一回見たり聞いたりしたぐらいじゃ到底覚えられないし、ある程度の頻度で会ったりするような人じゃないと顔と名前が一致しない。
何度人の名前を間違え、おじいちゃんやセンゴクさんに怒られたことか・・・!
フラミンゴの前にドがあったってなくったって同じじゃないか!!
最初こそは頑張って覚えようと努力していたが、絶望的な記憶力にその努力は無駄だと諦めた。
ぶっちゃけめんどくさいし。
『そういえば、ホーさんは何をしている方なんですか?』
「ホーじゃない。ローだ。それと敬語はいらない。俺は・・・・・海賊だ」
ホじゃなくてロだったか・・・
ローさんはニヤリと笑って自分を海賊だと言った。
海賊・・・・海賊は本来、私達海軍の敵だ。
でも、私は海賊にもいい人はいると思ってる。というか、実際いるのを私は知っている。
この人、ローさんもそんなに悪い人じゃない気がする。
会ってまだ数時間しかたってないけど、雰囲気というか、なんというか、顔つきというか・・・いや、顔つきはどっちかというと悪いな。隈凄いし。
まぁ、一言で言うと・・・・勘。
「ソフィ・・・といったか。そういうお前は?」
『私は・・・・・旅をしてるの』
「旅?」
『はい・・・じゃない、うん。海は広いでしょ?色々な景色を見たくって、海列車や漁船に乗せてもらって島を転々としてるの!』
我ながら完璧な嘘だと思う!
昔から嘘や冗談だけはすぐに思いつく。
さすがに、孤島で顔の怖い海賊を前にして、自分は海軍です!なんて言ったら絶対に気まずくなる!!
しかも、もしローさんの仲間の海賊が海軍よりも先にこの島へ来た時、私が海軍と知ったら絶対攻撃してきて、交戦は避けられないだろう。
そんなことになったら体力の無駄遣いだし、その後いつ来るか分からない海軍を微妙な雰囲気のなか待たないといけないしで、めんどくさい!
とにかく、この場は旅人として乗り切ろう!
「その旅に何か目的はあるのか?」
『・・・へ?』
「女が一人、危険な海に出るんだ。生半可な気持ちで出れるもんじゃねェだろ?」
『えーっと・・・・・・特には・・?』
しまった!理由が全然思いつかない!!
私の答えにローさんは口には出さないが、は?といった顔をしている。
『ローさんは何か目的あるの!?』
私は何かつっこまれる前に聞き返す。
少し慌てた感じになってしまって、ローさんは不思議そうな顔をしていたが気付かないふり!
「・・・俺は、ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)を見つける・・!」
『ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)・・・』
かつて海賊王が遺したとされているもの。
海賊王が死に際にその存在を放ち、それにより大海賊時代が始まった。
今いるほとんどの海賊達の目的はそれだ。
私の知り合いの海賊達はもちろん、兄と弟も・・・。
『そっか・・・。頑張って!』
私の言葉にローさんは目を丸くする。
「お前・・・笑わないのか・・?」
『・・・笑う?』
「俺が旅をしてきた中で、このことを言うとばかばかしいと笑われたもんだ」
確かに、何も知らない、関わりがない人達にとっては、そんなあるかないのか分からないものに人生、命をかけること自体ばかばかしいと思うかもしれない。
でも、そんな人達を近くで見て来た私は、その人達がどんなに本気で航海しているのかを知っている。
『だって、ローさん達は本気でその目的に向かって航海してるんでしょ?私には本気の人を笑うことなんて出来ないよ』
ローさんの目がさっきよりも見開かれた気がした。
そして、フッと笑う。
「変わってるな、お前」
『よく言われる』
「あぁ、それと、“ローさん”じゃなくて、“ロー”でいい」
『・・・ロー』
少し仲良くなれたのだろうか?
少しローの雰囲気というか私に対しての警戒心というものが柔らかくなった気がする。
気がするだけだったらむなしいけど・・・