遥かなる日々

□兄弟喧嘩
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「ふ〜ん…あの親父がねぇ」
 ぼぞ…と呟くヒノエくんに弁慶さんは苦笑する。
「でも…僕もやり返しましたよ、いろいろな手段を使って…相手を油断させて気を揺るんだところで仕返しをするんです」
 ニコ…と目もとはいつの笑み、だけど口元はどこか皮肉っぽさがあらわれる。
「ちょっと軽いしびれ薬をもったり、体がだるくなるような物を食料にまぜたり、たまに錨をおろす綱に切れ目をいれたりね…」
「それって、ばれたらもっといびられますよね」
「陰険っていうんだよ」
「それから、でしょうか…兄の方から歩み寄ってくれたのです。兄弟仲いいのが一番平和ですよね」
 ずず…とお茶をすすりながらいう。
「兄弟喧嘩か…」
「敦盛さん!」
「おどかすなよ」
「すまない…ただ懐かしく思えて」
 敦盛さんはおどおどしながら、ヒノエ君のとなりにすわり、衣服も乱れ、肌もあらわに取っ付く見合いの喧嘩になっている有川兄弟をみやった。
「経正兄上はいっさい手はださなかった…やさしい人だったから…」
 いいながら、己の両肩掴んで、フッと視線を床に流す。いつも辛いことがあると敦盛さんはそういう風にするのを私はしっている。
「敦盛さん、なにか心が苦しいのなら…話した方がらくになるときがありますよ」
「神子……す、すまない」
 ポッ頬を赤くしながら、
「兄上は強くいう方ではなくて、いつも優しくさとしてくれていたんだ……考えれば私の方にほとんど非があったから…
『敦盛、こちらを向きなさい』
『いやです、絶対にあやまりません』
『しょうがない子だね…』
 そういって兄上は、切な気なため息をついて、バキ…と何かを折った。
『え、ええっ! 私の大切な笛!』
『ほんとうに大切なモノを壊されたくなかったら…こちらを向きなさい、敦盛』
 そのとき、私をなだめようとしてくれた、惟盛どのがその兄上を見て…私の代りに泣いてくれた……。
……『大切なものがその手のひらからなくなったらお前はどうするんだい?』と同じ口からいった兄上とはおもわなかった」
「敦盛さん…」
 ヒノエ君は労うようにポンと肩をたたいた。
 有川兄弟の喧嘩はさらにエスカレートしていった。
 すでに美形な両者あお痣だらけ…。
「ったくもう、私がとめなきゃいけないのね!」
 私はそでを捲って、どしどしと勇んで二人を引き剥がした。
「いいかげんにしなさい!」
「先輩…」
「望美…」
「喧嘩しちゃ、メ、でしょ?」
 その昔ながらの喧嘩両成敗に二人は目を瞬いて微笑んだ。
「まったく…先輩にはかなわないな」
「そうだな…」
 
 やっぱり笑顔が一番だ。








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