ネオロマンス風ジルオール

□皇帝エリュマルクの12の災難
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「ここに献上いたします」

 わしゃわしゃと、枝のような腕を動かす女王蟻。
 受け取るのも癪だった(というか拷問のような気さえした)がエリュマルクが皇帝の威厳を感じさせる声で頷き受け取った。
 ぷにぷにと弾力の黒い球体(腹部)を触った時、笑顔のまま泡を吹いてエリュマルクは仰向けに卒倒した。

×××

「うぬぬぬ…、」
 額のぬれタオルを怒りを込めてにぎしめて唸った。
「ネメアめ! あんなものをよこしやがって!」
「陛下が献上しろとおっしゃったのでは?」
「うるさいうるさい! あんなもの本気で持ってくるやつがあるか!」
「陛下の御命令は絶対ですから…」
 ベルゼーヴァは苦笑して「哀れな皇帝」からタオルをとって十分に水で濡らし額に無造作におく。
「くそ…こんどは絶対に無理なことを……おお! そうだ、蟻の涙をみてみたい!」
「可能かと…」
 ベルゼーヴァは女王蟻を嫌々ながら抱き上げると、黒い腕一本少しひねる。
 すると真っ黒な複眼から大粒の涙がこぼれた。
「……うぬぬぬ…、ネメアめ! 第二の難問も解決しやがって!」
「………」
 これも可算なのか? とベルゼーヴァは内心首をかしげた。

 ネメアが献上した女王蟻はその後、エリュマルクの不興(?)を買いほったらかしにされた。
 その復讐(?)だろうか、彼女(といっていいのか?)は宮殿内を己の巣として横穴を掘ったり、無駄な部屋を構築し、謁見の間まで行く道をややっこしくして、官吏たちを困惑させ、のちに無限のソウルを持つもがまっすぐ謁見の間に行かずに宝探しに没頭するもろくなものがなくながばやさくれながら妖宰相を倒すことになるのは…そう遠くはなかった。

×××ラウンド2×××

「まけぬぞ…まけぬぞ…!」
 エリュマルクはまた一つの難題をクリアーしたネメアに闘志をもやしていた。
「よし、今度は人望を落としてやる!」
「人望を?」
 ベルセーヴァは怪訝に顔をしかめたが、エリュマルクは深くうなずいた。
 そしてベルゼーヴァにネメアを至急呼ぶように命じた。

 ……勇者ネメアをおとしめる、

 幾度もエリュマルクはそれを実行して、成功した試しはない。
 ……しかし、人望陥れるとはいったい…。
 今回もまた失敗に終わるに違いないが、用心にこしたことはない。
 そう…気を引き締めてネメアを呼びにいった。

「女子……更衣室の監督ですか?」
 さすがにこの命令の主旨を察してネメアは不快に眉を潜めた。
「……あからさまな…」
 怪訝にべルゼーヴァが呟いたが、
「違うのだネメア、ベルゼーヴァ!」
 ぐっと、エリュマルクは拳を強く握って力説する。
「最近女子更衣室に幽霊があらわれるのだ!」
「…………………は?」
「だから、幽霊じゃ」
「要するに退治せよと?」
「いや、退治しなくともいいから、女子更衣室内にいてみはってくれまいか?」
「あの、ネメアさまもお忙しい身、時間をきめられては…?」
「そうじゃの…じゃあ、今から24時間みはってきてくれ」
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