ネオロマンス風ジルオール
□皇帝エリュマルクの12の災難
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「ベルゼーヴァ…、幼いころ蟻の巣をいたずら心にほったことがあるか?」
「は?」
片手にスコップをもってネメアの手伝いをしながらベルゼーヴァは聞き返した。
ここは、賢者の森。
まぁ、ディンガル帝国から近い森の代表だが、ここは猫屋敷が近いので不思議な磁場が働いて、巨大化した昆虫も多々見られるらしい。
ネメアのしゃがんで黙々と蟻の巣を掘る姿には涙誘われたが、その表情は妙に懐かし気だ。
「あるような、ないような……」
サク、と土にスコップを突き立てながら「微妙…」と口の中でつぶやいた。
「私はあるぞ」
「そうですか…」
「子供は天使だというが、残酷な面をもちあわしていると私はおもう」
ざく、と強く土を抉るネメアにハッとベルゼーヴァは視線をむける。
「私はおさないころ、蟻を捕まえてはあそんでいて…ふと、こんなに蟻を生み出す小さな穴の中はどうなっているのだろう? と不思議に思って、最初は指でほっていき、だんだん穴が大きくなっていて…蟻が慌てて出ていく様もおもしろかったな…しかし、『最後』まで行き着いた時、私は血の気が引いて…」
「どういうことですか?」
「腹の膨れた女王蟻をみてしまったのだ」
「はぁ…?」
そういわれても、ベルゼーヴァは理解というか想像できず、同時に幼いころに土いじりに興味がなかったことをおもう。
「それで、どうしたのですか?」
「見なかったことにしたかったのだろう…ふたをするがごとくその女王蟻ごと、土を踏み固めた」
ひどい……! と唇の先まででかかったが、飲み込む。不思議にネメアが悲しい表情に陥っているからだ。
「ネメアさま?」
「その女王蟻を踏み固めた場所が……ここなのだ」
「え!」
思わず背筋が凍り付く。
「運命とは…皮肉なものだな……」
「は、はい…」
ベルゼーヴァは、哀愁ただよいながら掘り続けるネメアをみやって、謁見の間での彼を思い起こした。
あの困惑は、このことを思ってのことだったのか…。
「よし、任務完了した」
「え?」
ネメアの腕に大事そうに抱かれた女王蟻の姿にベルゼーヴァは卒倒した。