遥かなる日々

□華嫁
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あの熱さを俺はわすれないぜ、望美。
涼やかな声、
けれど皆を檄する威力は絶大だったぜ。

……熟田津に
   船乗りせむと月待てば
     潮もかなひぬ今はこぎ出でな………

その歌を歌った女性は、額田王というの知っていたかい?
かの万葉の歌姫は二人の男性に愛されていたそうだ。
けれどお前は沢山の人間に愛されている…八葉、朔ちゃんに、熊野の民、そして俺に…。



 健やかに眠る望美の顔にかかる髪を俺は愛しく耳にかける。
……サラ…、と流れるつややかな髪…。
 とたん愛しいという感情があふれて胸を締めた。
 髪のひとふさをとって、優しく口つける。
 俺だけの華嫁……。

「消えないでくれ…オレのもとから…」

 弱音が吐けるのは望美が眠っている時だけ…。
 愛している…神子姫…。
「消えないよ…、ヒノエくん」
「の、望美っ、起きてたのか」
 驚いてドキマキする俺に微笑む。そして望美の真剣な双眸にオレは息を飲んでみつめた。
「私はずっとヒノエくんのもとにいるから…」
「望美…!」
 俺は強く望美を抱き締めた。
 抱き締めずにはいられなかった…不安を完全に消し去るには。
「俺の華嫁は…やっぱりサイコーだな」
「私の華婿さまも最高だよ」
 くすくすと、おでこをくっつけあってわらい、御簾ごしの大きな満月を眺めやる…。
「いつか、お前の世界にもいきたいな…」
コクン、とうなずく望美が少し懐かしそうに目を細めた…。
「さびしいか? 家族や譲にあえないの」
「すこし…」
 俺は望美の頭を胸に引き寄せて髪を撫でた。
「大好きだよ、ヒノエくん」
 そういうと健やかな寝息をたてて眠りに落ちた。

………天の原ふりさけみれば春日なる
          三笠の山にいでし月かも

 けれど俺は絶対に望美を悲しませたりはさせない…約束をしたから…最高の華嫁にすると…。

「最高の幸せをお前にあげるよ、俺の心ごと……」








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