遥かなる日々
□華嫁
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あの熱さを俺はわすれないぜ、望美。
涼やかな声、
けれど皆を檄する威力は絶大だったぜ。
……熟田津に
船乗りせむと月待てば
潮もかなひぬ今はこぎ出でな………
その歌を歌った女性は、額田王というの知っていたかい?
かの万葉の歌姫は二人の男性に愛されていたそうだ。
けれどお前は沢山の人間に愛されている…八葉、朔ちゃんに、熊野の民、そして俺に…。
☆
健やかに眠る望美の顔にかかる髪を俺は愛しく耳にかける。
……サラ…、と流れるつややかな髪…。
とたん愛しいという感情があふれて胸を締めた。
髪のひとふさをとって、優しく口つける。
俺だけの華嫁……。
「消えないでくれ…オレのもとから…」
弱音が吐けるのは望美が眠っている時だけ…。
愛している…神子姫…。
「消えないよ…、ヒノエくん」
「の、望美っ、起きてたのか」
驚いてドキマキする俺に微笑む。そして望美の真剣な双眸にオレは息を飲んでみつめた。
「私はずっとヒノエくんのもとにいるから…」
「望美…!」
俺は強く望美を抱き締めた。
抱き締めずにはいられなかった…不安を完全に消し去るには。
「俺の華嫁は…やっぱりサイコーだな」
「私の華婿さまも最高だよ」
くすくすと、おでこをくっつけあってわらい、御簾ごしの大きな満月を眺めやる…。
「いつか、お前の世界にもいきたいな…」
コクン、とうなずく望美が少し懐かしそうに目を細めた…。
「さびしいか? 家族や譲にあえないの」
「すこし…」
俺は望美の頭を胸に引き寄せて髪を撫でた。
「大好きだよ、ヒノエくん」
そういうと健やかな寝息をたてて眠りに落ちた。
………天の原ふりさけみれば春日なる
三笠の山にいでし月かも
けれど俺は絶対に望美を悲しませたりはさせない…約束をしたから…最高の華嫁にすると…。
「最高の幸せをお前にあげるよ、俺の心ごと……」