遥かなる日々
□必要なのは余裕
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「……夢か、」
ここ何日も悪夢にうなされつづいている。
譲は額に浮かんだ大粒の汗を手の甲で拭い、まだ薄暗いあたりを見渡して起きあがった。
この世界は時計が無くて不便だと思ったが最近では数字に支配されてない分、緩やかな気がする。
あたりの空気や暗さを見やって、時間を推測する。
八葉達や望美はまだ眠ってリズ先生さえ木に背を預けて船をこいていた。
譲はみんなを起こさないように床から抜け出す。
「…ん…、」
「先輩?」
唸って掛布をのける望美に気づいて、掛布を肩までかけてなおしてやる。
「う、うん……」
目覚めさせてしまったか…と、ドキリとしたけれど寝返りを打っただけで譲はホッする。
そしてしばらくその寝顔を見つめた。
「春日先輩……」
考えてみればずっとそばにいても野宿でない限り、こんなにちかく先輩の寝顔なんて拝めない。
その、無防備の寝顔に触れたい。
おもむろに手を伸ばしかけたとき。
「なぁに、やってるのさ、譲」
「!」
「ふふ、姫君の眠りを覚まさせるのはお前達の世界じゃ『王子さま』なんだろう?」
「……ヒノエ、」
ヒノエは皮肉っぽい笑みを浮かべて譲をみやっていた。
「まさか、その王子がお前だっていうんじゃ…ないよな?」
「……」
譲ムッとして立ち上がりヒノエを無視し林の方へとむかう。
「おい、どこへ行くんだよ」
ヒノエは皆を起こさないよう譲の背に声をかけて慌ててあとを追った。