ネオロマンス風ジルオール
□皇帝エリュマルクの12の災難
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獅子皇帝ネメアの『12の難事』は有名な話だが…皇帝・エリュマルクの『12の災難』を知る者はごくわずかだ。
×××
「の〜、ベルゼーヴァ」
けだるい声で皇帝・エリュマルクはベルゼーヴァに問いかけた。
「は、なんでしょう?」
ベルゼーヴァは声だけハッキリとエリュマルクに向けているが、視線は手に持っている書類に目をとおしていてエリュマルクには適当に相づちをうつ。
だが、エリュマルクが次にはっした言葉に彼は我にかえった。
「……今度の難事はなににしようかのぉ…ふ、ふ、ふ…」
「陛下…、またですか?」
「ふ…やつめワシが出す命令を難無くこなしていく…つまらん」
吐き捨てるようにいうエリュマルク。
「……」
彼はベルゼーヴァの殺気を含んだ怪訝な視線に気付かず、思案する。
親指の爪で顎ヒゲを梳いていた手をとめて「おおそうだ、これにしょう!」とひらめきを叫ぶと同時に、ぽん、と手をうった。
「世界一大きな働きアリの女王を我に献上するのじゃ!」
「………………………………は?」
ベルゼーヴァはエリュマルクの発言に目を点にして聞き返した。
だがエリュマルクは意気揚々……まるで悪戯を思い付いた子供のような笑みを浮かべていう。
「いままで、わしは誰もができぬ難事をネメアに命じてきたが、『誰もがいやがる難事』を吹っかければよいのじゃ!」
「そうですね…」
内心、「せこい……」と思いつつ、鉄壁の表情をくずすわけにもいかない。
引きつる形の良い唇をなんとか我慢してエリュマルクにうなずいた。
×××ラウンド1×××
「女王蟻……ですか?」
「勇者ネメアともあろう者が、蟻の女王を捕えることはできぬともうすか?」
「いえ…」
その声音には相当困惑の色が含まれている。
ベルゼーヴァは深いため息を吐いた。
いま、謁見の間にはエリュマルク・ベルゼーヴァ・ネメアの3人しかいない。
こんな、子供っぽく『みみっちい』命令は大々的に公にはできない。
ネメアはすこし考えたあと、「わかりました」といい退出する背にエリュマルクは「モンスターではないぞ! 昆虫だぞ昆虫!」と喚くように付け加えた。
かすかにネメアの『ちっ』という舌打が聞こえが、ベルゼーヴァは聞かなかったことにした。
「ベルゼーヴァ」
エリュマルクの神妙な声に彼はハッとした。
まさか、ネメアさまを暗殺しろと?
脳裏に、一生懸命蟻の穴をシャベルで掘っているネメアの背後に刃をふりあげるシーンを想像して「ぷっ」と吹き出しそうになったが。
「監査のほど頼む」
「わ、私がですか! 監査って他に適任者がおりますでしょう!」
「だってこの話を知る者はお前しかいないだろう?」
「う…」
ベルゼーヴァは大人しくその言葉に従った。
ネメアと共に行動できるのだから、手助けができるのだから。
例え任務がみみっちい、ものにしろ。