アンジェリークと愉快な恋仲間達

□いつか、運命が交わる時に…
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◆いつか時が、
  交わる時に……◆








 ――――だめだっ…。






 突如襲ってきた発作に焦りと不安と恐怖に胸の衣をきつく掴んで耐えた。

 たえなければ、この世界は飲み込まれる……!

 視界が、眩む、息がつげない、否――呼吸のしかたが分からない。

 生きたい! 生きたい! ――助けて!

 生への渇望を望んだ幼い私を思い出す。




 違う、





 いまも――生きたい!

 生きて、生きて、生き…。


 私に住み着く奴があざ笑う。

 ――生きろと。





 生きて、絶望しろ




 ――お前が生きている限り、我の子タナストは消えぬ。



 徒労だ。

 人を助けても、お前が生きている限りすべてが無駄なのだ。


 闇のざらついた手が私に絡み付く。


 闇へ……

 闇の持つ本質――安らぎへと導びこうと。

 私はその手を振払った。



 ――永遠の闇などいらない!


 エレボスが怯む。


 私の中にすむエレボスを直に見たことはないけれど気配で分かる。



 ふふ……私も往生際がわるいですからね。

 それに私が儚くなった時、お前は孵る――。



私はこの世界が大好きなんです。



 お前がくれた『生』のおかげで長い年月を生きることになってしまった。


 たくさんの悲しい別れがあった――人と交わること、関わることを恐れたこともあった――けれどそのすべては愛おしい優しさに繋がっているんです。



 だから、私は、


 贖罪を背負いながらも――生きる。


 私とお前を葬ってくれる少女が現れるまで――。



 そんな存在は現れない、


 嘲笑とともにエレボスが薄れていく。



 それとともに、こぼれ日が私のまぶたを愛撫し、



「大丈夫、おじさん?」

 幼い声が届き、指をぎゅっとあつく握ってくれた。



 え?



 瞼をあげると、かわいらしい少女が私の顔を覗き込み、目があう。

 いつの間にか発作が引いたことに安堵のため息をついて、小さなレディの手の甲に唇を軽く落とす。

 もう大丈夫ですよ、ありがとう小さなレディ。

 レディは頬を赤く染めてはにかんだ。

「もう、大丈夫?」

 ええ、あなたが看病してくれたおかげで。

「うん。すごく苦しそうだったの、だからね、ゆびをね、にぎったのよぉ?」

 まだ小さな手は私の人さし指を握るので精一杯なのでしょう。けれどぎゅっと握ってくれるその手は優しい。


 ………いや、この子は…!




 私はハッと彼女をみやった。

 きれいなブルーな髪に、ガラスのように澄んだ大きな瞳。
 もちろんまだ年端も行かぬ子供だけれど、女王の肖像画と面持ちが似通っている。


 ……この小さなレディが私を裁いてくれる。


 私を救ってくれる。



「おじさん?」

 小首をかしげる小さなレディの手を感謝を込めて握りしめる。

 けれど、おじさんと呼ぶのは止めてほしいと思うものの、この小さなレディからみれば私は『おじさん』なのでしょう。

 私にとっても彼女が『ちいさなレディ』のように。

 

 ありがとうございます、もう大丈夫です。………ありがとう。

「うん!」

 名前は………まだ名乗らないでおきましょう。

 小さなレディと私の運命が交わる時まで………ね。


 少女は両親のもとにかけ戻っていくのを私は見送りながら幽かに届く彼女の声に微笑みを浮かべた。

「……あのおじさんはわたしが看病したのよ」

 嬉し気な声を心にとどめて…。
  
 
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