よろず小説
□葵の憂鬱とボビーの楽しみ
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■王妃という人■
日野平の巫女姫・葵――七姫として紅丸を使役しあやかし達を退治していたときは恋など、――ましてや恋するなどおもってなかった。
それが――、アロランディアに召喚され、その島国を救う星の娘候補として日々。それを陰謀渦巻く激動によって大国ダリアの馬鹿王子――シリウスにさらわれて……今、ダリスについた。
うう、丘酔いだ……。
「ダイジョーブ」
口を押さえてしゃがむ私にシリウスの腕人形・ボビーが顔をのぞかせる。
や、やめい! さらにめまいがする!
「えーボビーがしんぱいしてあげているのに〜」
お前の言葉で言え!
「そうかい、では……マイハニー、つわりは辛いかい?」
ば、ばかっ! 吐き気じゃ! たんなる!
殴ろうとした私の手首をシリウスはひょいとかわし、次第手首をとって自分の胸に引き寄せた。
な!
「誰かあれ! 我が妃の体調が!」
シリウスを出迎えた王宮の者たちが大きくざわめいて慌てて私を馬車に押し込んだ。
あ〜れ〜!
叫ぶ私にシリウスはボビーに白いハンカチを持たせて「マッタネー!」とうれしそうにいっていた。
☆
……あ、夜?
気付いたらベットにわらわら眠っていた。
航海の間、ずっとベットだったのでなれていたが、こんなにどびろいベットははじめてみる。五人ぐらい余裕でござね出来るんじゃないか?
私は状態をおこして、納得する。
どうも重いと思ったらうわかけもそれに見合った物だから一枚だけでお重くて引っ張られる感じだったんだ。
「オメザメカナ〜オヒメサマ!」
ひゃああ!
「驚くとは酷いな〜ずーとボビーは心配してそばにいたのに〜」
うそつけ! さっきまでお前はいなかった! ってベットに登ってくるな、
「それって、いけないこと?」
え?
シリウスはボビーをそっとはずして、私の頬に触れ顔を近くによせる。
吐息がかかる。
「私はいったはずだよ、人質を隠す場所があると」
シリウス、……?
おびえる私にシリウスは私の額に唇をおとした。
そして瞼、鼻先、頬、……唇に。
「私の奥さんになってくれるよね」
その言葉に私は否定の言葉を言おうとして、だけれど両手を取られベットに押し倒された。
「いまさら嫌だなんていわないで。私のエトワール」
干支?
「星という意味だよ、星の娘候補」
あ、
シリウスは私の掌の星に口づけた。
「私はずっと我慢していたんだよ。船の中で――一緒に寝ていて気付かなかった?」
え、あ、その。
「キズイテタヨネー!」
たのむ、ボビーで真相を突き止めないでくれ。
「ふふん、気付いていたんだ。お手柄だぞボビー」
よしよし、と人形に頭をなでるシリウスにあきれながら私は白状した。
――しっていた。
同室で、ここに……ダリスにつくまで彼がものすごく我慢していた事。
いや、シリウスのことは好きだ。
好きだからこう人さらいにもあった。
でも、男と女の中――深い仲になるのが怖い。
「怖くないよ――君は私の事をもっと知りたくない?」
…………。
「私は知りたいよ。君の普段見せない表情、声、姿を」
……すけべえが。
「ひっどーいな、葵さん。でももう覚悟はできているはずだよね」
!
シリウスが悪童めいた表情をきらめかせ、完全に私に体重をかけてきた。
「おびえないで。私にすべてを任せて我が妃――」
私の髪に優しく口づけて、切なげに請う。
卑怯だ。
私はドキドキする気持ちやふしぎな高揚感を吐息に少し溶かしてシリウスを抱きしめた。
やさしく、してくれなきゃ……やだ……。
その言葉にシリウスは目をしばたたかせ幸せそうに微笑みをうかべた。
「わかっているよ、かわいい人」
☆
「まいったな……」
シリウスは腕の中で眠る愛おしい葵の額にキスを落した。
今まで関係を持った女性の中でこんなに愛おしいと感じさせる女はいなかった。
「私は本当に私だけの輝ける星を手に入れてしまったようだ」
本当は、この葵こそが星の娘だったんじゃないのか?
その娘を私は盗んでしまった。
――いや、まずはじめに盗んだのはこの世界だ。
彼女の故郷、世界は彼女を必要としていたに違いなのに。
なら私は彼女の世界を作ろう。
偽りをまとう私だけれど、彼女の前では私でいよう。
愛おしいよ――葵さん……。
シリウスは葵を抱きしめて大切の夜を。