main 悪魔との契約


□邂逅
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お父さん。お母さん。


両親が揃っていたなら


願わなかったことかもしれない。




あるいは




親戚の誰かと暮らしていたなら


素敵な友達がいて


毎日ちやほやされていたなら


親友がいつもそばにいたなら


願わなかっただろう。



きっと。



悪魔との契約なんて。














カーテンの隙間から漏れる朝日で

雛は目を覚ました。



「ん…」



今日は土曜日。

学校が休みの日だ。




雛は携帯を手に取り

画面を見るとため息をついた。



「まだ8時……」


(今日はなにをしよう……)



雛に両親はいない。

幼い頃、
両親とも交通事故で他界してしまった。

叔父の援助で一人暮らしをしているが
一緒に住む人はいない。



表にでるのが苦手な性格のためか
あまり親しい友達はおらず、

唯一仲のいい親友も
遠くに住んでいる。




休日になると

雛は決まって憂鬱になった。




手の甲を額に当てて
ぼんやりと部屋の天井を見つめる。



(今日はどうしようかな)

(そうだ、借りていた本返さなくちゃ)

(図書館に行こう)



予定を決めると

雛は緩慢な動作でベッドから降り

支度を始めた。








休日の図書館は閑散としていた。



(普通の人は、どこかに旅行に行くのかな)



一抹の寂しさを抱えながら、
受付係に本を渡へ返却する。



(次はなにを読もう?)



借りる本を探して
雛は本棚をきょろきょろと見回す。



別に本が好きなわけではない。
ただ暇つぶしになればよかった。








しばらく室内をうろついていたが、
一冊の本に目を奪われた。




真っ赤な表紙に、
何語かわからない金色の文字。

開いてページを見てみるが

白紙だ。



(誰かの日記だろうか?)



雛は首を傾げた。 



(それにしても……)

(不思議な本……)

(吸い込まれそう……)




(欲しい、かも……)

(もらっちゃおうかな……)




ハッと我に返る。

暫く本を凝視していたようだ。



(やだ、私何考えて…!)

(貸付シールもカードもないし、きっと誰かの忘れ物だよね)

(ちゃんと受付に渡さなくちゃ!)



いそいそと先程の本を受付に渡し、
何も借りずに雛は図書館を後にした。



(なんだったんだろ、さっきの感じ)



普段はあんなこと思いもしない。

本に惹きこまれたのだ。

どうしても欲しくなった。




不安で鼓動が早くなる。



(なんで……)



これ以上考えまいと

雛はぶんぶんと首を横に振って

早足で家に向かった。
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