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□仲良くしたい
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朝、レストランにて。
『…ねぇパンツ。』
「………は?」
『…………パンツ』
「……貴様何を…」
『パンツ寄越せぇええ!!!!』
突然声が上がった。
そこには必死に逃げ回る田中を、苗字が必死に追いかけ回る姿があった。
朝から何をやっているのか、と皆が冷たい目で二人を見ている。
が、
苗字が言うことは一理ある。
まず始めに。
俺達は、皆それぞれと仲良くして絆を深めると"希望の欠片"が貰える。
そしてその欠片が6つ集まると、集めた相手から仲間の印と言うかなんと言うか…パンツが貰えるのだ。
中にはTバックやらブリーフやらあったが問題なのは、田中だ。
田中の"希望の欠片"を6つ集めたが、パンツは物理的には貰えていない。
どういうことか、とアイツに問えば
((フン、これだから人間は。いいだろう、特別に教えてやる。これはアストラルレベルが低い人間には見えはしない…不視覚パンツなのだ!フハハ!どうだ、恐れry))
とかわけわからんことを言っていた。
アスうんちゃらレベルって言葉で誤魔化してるだけで結局はノーパンなんじゃないかと思っている。
だとしたら普通にそう言えばいいのにな。
で、冒頭に戻るが…
何故か苗字は、男子軍の中で田中が一番気にいってるらしい。
そして田中との"希望の欠片"を集めたが、アスうんちゃらレベルがどーのと誤魔化され、そこには無いがパンツを貰った。
そこが苗字気に食わなかったみたいだ。
((意地でも田中くんからパンツを奪う!))
と、俺に宣言してきた。
無理だろ、どうせ無理だろうとか思ったけど頑張れとしか言えなかった。
ごめんな田中、俺が止めてれば…
『…さぁさぁさぁ脱げ!脱げ!ほら!せいやっ!』
「くっ、やめろ!離せ!俺様の毒で死ぬぞ!おい!やめ、やめてください!」
…田中は今のように、苗字にズボンを引っ張られずに済んだだろう…
ごめんな、ホントごめんな。
止める気はないけど。
その光景をじっと見ていると二人と目があった。
あ、巻き込まれ…
『「日向(くん)!!」』
「…………」
二人してハモるなよ。お前ら仲良いな。
はぁ、と溜め息を吐きながら近寄ると腕を苗字に掴まれた。それはもうガシッと力強く。
「な、なんだよ」
『お願い!田中くんのズボン脱がすの手伝って!ね、お願い!』
「ふざけるな!おい日向、苗字を連れていけ!」
「えー、どうしよう」
わざとらしくそう言えば、日向!とまた声を合わせて怒鳴ってきた。
そして顎に手をあてて考えるボーズをしてみた。
「…んーでも俺も田中からちゃんとパンツ貰ってないしなぁ。パンツハンターとしてはちゃんと集めたいんだよなぁ」
「ヒャッハー!創ちゃんパンツハンターだったんスか!」
遠くの席で澪田どひゃーと笑った。
「いや…まぁ冗談は置いといて…俺は普通に苗字に賛成だ」
「な、何故だ!?」
「だってさ、田中だけだぞ?物理的にパンツくれないの。なんだよアスうんちゃらレベルって」
『そうだよ!そのレベルが高くなきゃ見えない本当のパンツだったら納得するけどさ!そんなの存在するわけないじゃん!』
「そ、存在するぞ!現に今身に付けt「だから誤魔化すなよ」
にこりと笑い田中の腕を掴めば、それはもう尋常じゃないくらい震えていた。
苗字は隙を狙って田中のベルトに手をかけた。
「さぁポロリするのかしないのか!」
「なっ!?」
「いいぞ日向!苗字!やれ!」
田中が押されていて嬉しいのか左右田か茶化し入れてくる。
いつものうっぷんをはらしているつもりだろうか。
『ふっ、観念したまえ田中くん!』
「は、破壊神暗黒四天王ォォォ!!」
『!!!』
「あ…!!」
苗字がぐっと手に力を込めたとき、田中がハムスターの名前を叫んだ。
直後、ストールからハムスターが飛び出してきた。ハムスターは俺と苗字目掛けて飛んできたのだ。
「……ぶなっ」
が、手を掴んでいただけの俺は見事避けることができた。しかし苗字は屈んでいたため反応に遅れてしまい、顔面にハムスターがめり込んだ。
…そしてドサリと倒れた。
「助かったぞ…破壊神暗黒四天王よ…」
「あーあ、大丈夫か?苗字」
『…………』
仰向けに倒れている苗字に声をかけると、ぶわっと涙を流した。
「お、苗字!?」
『…うっ、ひ、ひどいよ…』
「き、貴様?何故涙する…」
ぐずぐず泣きながら喋りだす。
田中は突然のことにおろおろしている。
『…私はさ、ただっ…田中くんと、仲良くしたかった…だけなのに…、』
「……」
「……田中」
「ぐ…っ、おい」
俺が田中に冷たい目を向けた。すると田中はしゃがみ、声をかける。
苗字はその声に、ぴくりと動いた。
「………………今日だけだ。……今日だけ、俺様と共に行動することを許可してやろう…」
『……ほんっ…と?』
「っ、いいか!今日だけだぞ!」
途端、苗字の口端がつり上がった。
コイツ、まさか―――
『アハハハっ!田中くん言ったね?絶対だからね?ふふっ…あー楽しみだなぁー♪』
苗字はすくりと立ち上がるとスキップしながらレストランを出ていった。
騙したな――。
「…………。」
「………」
「………き、…さ…まぁぁぁぁぁ!!」
呆然としていた田中はいろいろ理解したのか、叫びながら苗字を追いかけた。
さっきとは逆になっている。
「…ったく、よくやるよなぁあいつら」
「まあ…苗字が楽しそうだし、いいんじゃないか?」
「そーか?…それより飯、早く食っちまおうぜ」
「そうだな」
近づいてきた左右田にそう足され、俺は椅子に座りご飯を食べる。
大きな窓から苗字と田中のおいかけっこがとても楽しそうだった。
そんな楽しそうな二人を見れなくなる日がくるなんて、このときの俺は思ってもいなかったんだ――。
*end