文章置場

□三成
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右肩に掛かる重さと熱が心地よくて、私は目を閉じた

しばらくこのままでいいと思った矢先、その熱の主が可笑しそうにくつくつと笑った

「意外。絶対怒ると思ったのに」
「・・・怒号を浴びたかったのか」
「いや、冗談だって。ちょっと眠かったからくっついてみた」
「・・・そうか」

怒る気などさらさらない
雲居のもつ柔らかな雰囲気が心地よかった

「あれ、眠い?」
「・・・少し、な」

最近夢を見るようになった。眠ること自体少なかった私が夢を見るのは、たいてい雲居が傍にいるときのような気がする
欠伸を噛み殺すと雲居はやはり可笑しそうに笑うのだった


それはいつも同じ夢

『三成様、どうか御無事で』
『わたくしめを置いてはいかないでくださいませ・・・』
『必ずや生きて、再会を果たしましょう』
『わたくしは待ち続けます』

かの関ヶ原の地。"私"はそこで最期を迎えた。女に何度も声をかけられ、それに応える返事をした。しかし結局、"私"はあの太陽のような男の拳の前に倒れたのだ

"私"はあの女を裏切ったことになるのだろうか。己が最も忌み嫌った嘘と死別を残して

そういえばあの女は雰囲気がどことなく雲居と似ていた。慈しむようなまなざしと声、待ち続けると誓った時の泣いているようにも見えた表情
しかし、雲居はよくある女の、すこし痛んだ鳶色の髪をしていたが、あの女は椿の葉のような緑髪だった

今となってはあの女を救う術など持っておらず、だいたいこの夢が本当のことだったかも私にはわからないのだ
あの女も太陽のような男も、私を三成と呼び、笑いかけた
その響きは優しく懐かしく、気付けば涙を流していることもあった。帰りたいと、そう思うこの感情はどこから来るのか

きっと、許されたいのだろうと思った

ただ忘れえぬものとして、永劫"私"を夢に見るのだろう。きっとそれが、私の償いなのだ


『輪廻を経て二人が巡り逢いを果たしても、わたくしは三成様がわたくしを思い出さぬよう呪いをかけた。それがわたくしを裏切った報いであるとともに救いであると信じて』

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