追走

□01
1ページ/1ページ






《オレは雲が好きだけどよ》



《何より》




《お前と一緒に見る雲が》





《一番好きなんだよな》





"ふふ、なんかいつになくキザだね?"





《うるせぇな、悪いかよ》





"…ううん、すっごく嬉しい!"




《…そうか》




《…なぁ、》



"ん?"




オレ達、ずっと一緒にいような









----------


忍の世界。

とある戦場、焼け付く大地、転がる死体


それは当たり前の光景だし、私は何度もくぐり抜けてきたし、これからもそうだと思った




でも、あまりの長期戦で、疲労がたまりに溜まった私はいつものようには動けなくて、本来なら倒すのに造作もないような相手にも苦戦を強いられた



そして、油断をしたのか不覚にも後ろを取られ、全く反応出来ずに体を動かそうにも動かせず、死を覚悟した




「死ね!!」



『…!!!』




その時、



「梓!!


(ザシュッ)



っぐあ゛あ…ッ!」



愛しい人の声を感じ取ったあと、

大好きなその背中が、目の前で刃が貫通して血飛沫が舞うのが見えた



『ーッ!!!!
このおぉ!!!!』



「ぐあっ!!」



動かない体に鞭を打って、恋人を傷付けた憎いソイツをクナイで心臓を寸分狂わず突き刺す。
即死だっただろう

でも、殺したってこの感情が消え去る訳ではない


怒り、憎悪、悲しみ、焦り


全てが私の脳味噌を満たした



『ど、してここにッ…なんで、私なんか…!!』



「…お前が、敵に囲まれてんの、見えたから、よ…持ち場離れて来てみりゃっ、ぐ…!!」



『…!!だ、ダメ、喋らないで!!血が…早く止めないと』



「…っ梓…」


幼い頃に無理やり勝手な大人達に叩き込まれた医療忍術。

すぐに印を組んで風穴が開いてしまった胸へチャクラを纏った手を当てる


教えられた時はコイツは凄いだ天才だと持て囃されたけれど、

今役に立たなければ何の意味だって無い



『血が…止まんないよぉ…!イヤだ、止まって…止まってよ…ッ!!!』



「く…うあ゛…、」




目の前で苦しんでいる最愛の人。

その切れ長の鋭い瞳が、だんだんと弱々しく光を失っていくのが分かる。



震える左手で、緊急信号の小型の煙筒を開き、医療班を呼ぶ。
この戦争は木ノ葉の予想だにしなかったもの

突然の奇襲で医療班も出払ってしまっていて、駆けつけてもらえるか、そもそも医療忍者達も無事じゃないかもしれないけど

少しの可能性だって諦めたくなかった




「…ッなぁ…梓」



『喋っちゃダメだって「いいや、言わせてくれ…」

…!!』



「オレ、は…幸せだ…」



『…っ、うん…』



少しずつ瞳を覆い閉じていく瞼、



「お前を…やっと本当の意味で、守れた…ッハハ…お前、強ぇから、よ…」




『そんなこと、ない…っ私はいつも助けられてたのに…!』



掠れていく大好きな声


全部が、現実なんだと
少しずつ頭が理解していく

涙が、ボロボロ零れて止まらない



「…泣くな、よ…お前は、もう苦しんじゃいけねぇんだ…幸せに、なって欲しいんだよ、っオレぁ」




『イヤだ、イヤだ…!!アナタがいなきゃ、私…幸せになんかなれないよ…アナタがいたから、幸せになれたのに…お願い、死なないでぇ…!!』



「ハハ…それが聞ければ、充分、だぜ…っぐ!!」



『!!やだ…頑張って、お願い、もう少しできっと医療班が』



「梓…っ!」


『っえ?…ッん』


もう少しの力だって出せないハズなのに、ずっと横たえていた右手に後頭部をぐっと引き寄せられ、口付けをした

唇を押し付けるだけの幼稚で可愛らしい筈の口付け。

けど、涙と流れた血の味がそれを感じさせない程切ないものにさせた



「お前は、オレを…ずっと愛してくれる、か…?」



『っうん、うん…ずっと…いつまでだって!!!』



「…じゃあ、よ



来世で、また…一緒んなろうぜ」




愛してる




その言葉を最後に、私の頭に添えられていた手が、一度ゆっくりと髪を撫でて

それからぱたりと、血を吸った冷たい地面に落ちた



『ーーーッ!!!!
シカマルーッ!!!!』




《お前には長い髪が良く似合う》


照れながらも、微笑んでそう言って私の髪を良く撫でてくれていた


目の前のアナタも、なんだか微笑んでいる気がして



これから生きている内、

出会いもあるし、忘れて誰かと一緒になって幸せになれるかもしれない


彼はそう言いたかったんだと思う



けど、私を幸せにしてくれたのは紛れもない彼で、彼がいなければ私は永遠に闇の中だっただろう


他の人なんて考えられない

アナタだから、私の毎日は彩った



色の無い世界なんて
烏滸がましくも、一度知ってしまった幸せはもう無くしたくないのだ



『…来世で、一緒に…?

そんなの、耐えられない
私は、今すぐに追い掛けたい!!!!』





もうチャクラもスタミナも底を尽きている

だけど、火事場の馬鹿力かは分からないけど、搾り出す事ができた そして


『口寄せ、雲外鏡』


私の、特別な力を呼び出した



---



「…何用致した?梓」



『霧雹(ムヒョウ)…お願いがあるの』



「…!!
此奴は…奈良の小僧…」



『…私を…庇って…ッ』



忍の世で梓だけが持つ特別な口寄せ動物、雲外鏡(ウンガイキョウ)
美しい装飾の施された鏡の姿をしていて、

時間や空間を操り、鏡の中に物体や人までも吸い込んでしまう事も出来、口寄せ動物や尾獣でさえもまともにやり合えばその力は遠く及ばない程の最強クラスの口寄せだ



「左様か…して、何故私を呼んだのかね?私の力は知っていようぞ」



『うん…わかってる…。


私を、"シカマルの存在する別の時空世界"へ飛ばして欲しいの』



「!御主…自分が何を言ってるか分かっているのか!!」



『もちろんだよ…私も馬鹿じゃない』




「それが馬鹿だと言うのじゃ!
私の力は確かに時間や空間を行き来できる…だが時空同時に、しかも世界じゃと!?
例え飛ばす事が出来ても、御主が生きてたどり着ける確証は無いのだぞ!!!」



『…それでも、いい。』



「…!!?」




時間や空間を操る。
しかし、操るのはどちらか片方しか前例はなく、普通は不可能な事だ。



「…小僧が御主の事をまた愛すかも分からないのじゃぞ」



『私はシカマルを愛してる』



「…性格も見た目も何もかも変わっておるやもしれん」



『私の想いは、絶対に変わらない』



「…左様、であるか」


梓の熱意。
常に頑固であったが、此処まで頑ななのは幼い頃から梓を見てきた霧雹にとっても初めての事だった
言葉は短いが、どれも信念の重みを含み、何より真っ直ぐな瞳が"本気"を感じさせた


「主がそれを、望むのなら」



『…ありがとう』



1つ、梓が雲外鏡に深い御辞儀をした後、


徐に一本のクナイを取り出し、自分の首元へ持っていく


「!梓、何を」



『…心配しないで』



ザクッ



という音と共に切り裂かれたのは、梓の長く美しい黒髪だった。

はらはらと風に乗り、浚われていく



『シカマルが褒めてくれた、私自身の宝物だけど』



「…梓」




『…コレで、シカマルを守れない私は、死んだ』



そう言うと、まだ温かさの残った横たわる恋人の頬をスッと撫で、雲外鏡に向かい



お願い



そう一言、力強く言い放った



行くぞ、




そう雲外鏡が言った途端辺りは光に包まれ



梓は消えていった。













end

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ