【銀色小話】

□黒とオレンジ
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「兄ちゃんも、髪うすいアルか?」





俺たち夜兎が嫌う太陽が昇っている頃。
突然神楽がそんなことを訊いてきた。
母さん似のオレンジ色の髪をした妹。



髪がうすい?
ハゲかかってる、ってことだよね。
どっちかって言うと、多い方だと思うんだけど。
順調に三つ編みも出来るようになってきたし。
俺は父さん似の黒い髪で作った三つ編みを揺らして首を傾げた。




「どうしたの、神楽。俺の髪、うすく見える?」



逆に尋ねると、神楽は俺の頭をじっと見て首を振った。



「見えないアル」
「だよね」



ハゲかかってるなんて有り得ないことだと分かってはいるけど、一応安心しちゃったよ。
だけど突然どうして───あれ?
今さっき神楽は………。



「──兄ちゃん『も』?」
「あのネ、私見たヨ。パピーが枕に付いた髪、ぜつぼーてきな顔で見てたアル」





あぁ、なるほどね。
父さんは毛根の女神とケンカしちゃったみたいだね。
実家に帰りつつあるらしいし。
ごしゅーしょーさま。

肩をすくめると、笑いが込み上げてきた。


あの星海坊主に絶望的な顔させるなんて、やるじゃないか、毛根の女神様。




「兄ちゃん?」
「あぁ、ごめんごめん。何でもないよ」



にこりと笑顔を見せると、神楽は安心したように俺に抱きついてきた。
まだ幼いから力のコントロールが出来てないけど、俺にはカンケーない。
同じ夜兎なんだから。



俺は軽々と神楽を抱き上げた。
プニプニとほっぺたをつつく。
神楽はくすぐったそうに笑った。



「でも、嘘だったアルな」
「? 何が?」




そして続く神楽の言葉に、俺は衝撃を受けた。






「オトコはパピーに似るって、マミーが言ってたネ。だから兄ちゃんも、ハゲたと思ったアル」




───え?
そうなの?
男は父親に似る?
俺が、父さんに似る?
……あれ、じゃあどうなるの?
今俺は小さいから毛根の女神が保護してくれてるけど、俺も父さんぐらいの歳になったら?
俺の毛根の女神も実家に帰ったりす………





「──神楽」
「何アルか?」




俺はそっと神楽を降ろして背を向けた。






「ちょっと髪染め買ってくる」







母さんと同じ髪色にしよう。













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