【銀色小話】

□どうでもいいンだよ
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「──年貢の納め時だ、桂」





周りには黒、黒、黒。
皆一様に刀を構え、いつでも斬り掛かることが出来る。
ここは平地で、逃げ場もない。
桂はふむ、と頷いた。




「幕府の狗のくせに、なかなかやるではないか。──真撰組よ」




黒の集団──真撰組隊士の三人が前に一歩進み出た。




「なぁに余裕ぶっこいてんでさァ。今から斬られるってのに」
「まぁ、捕らえて他の攘夷浪士共をあぶり出すっつーのも良いかもしれねぇな」
「気を抜くな。相手はあの桂だ」
「分かってまさァ、近藤さん」
「気なんか抜くわけねぇだろ。……待ち望んだ時なんだからよ」





ドS顔でニヤニヤする沖田。
煙草をふかす土方。
真撰組の頂点に立つ近藤。
何気ない会話でも、一時たりとも隙がない。
桂はフッと笑った。



「まさか俺の変装が見破られるとはな。逃げ場もない。……残念だ。貴様等のことはあまり嫌いではなかったのだがな」
「止めてくだせェ。照れるじゃねェですかィ」
「殺気振り撒きながら何を言っている」





ひゅうっ───……





風が、吹いた。





桂がすぅ…っと刀を抜いた。
鋼色が反射する。
ぐっ、と真撰組隊士達は刀を構える。










「──ゆくぞ」

















桂の足が地を蹴った瞬間。














どぉぉぉぉぉおおおおぉぉおぉおんっ……っ












「!? 何だ!?」
「まさか、桂の仲間が…っ?!」
「あやつらは……」






突然の砲撃音。
真撰組は桂に全神経を集中させていた。
桂は真撰組の闘気に集中していた。
だから、気付かなかったのだ。





己たちが更に、囲まれていたなんて。







一人の男が前に進み出た。
恰好で分かる。
攘夷浪士だ。
その男は息を吸って、大きな口を開けた。






「この金森二郎が率いる『狂魂党』、桂、貴様の二つ名から一字いただくほどに貴様の思想を支持していたが……そんな貴様が何故穏健派なんぞに成り下がった!!」





「『狂魂党』?!」
「たしか……過激派の一つでしたねィ」
「お、お前が覚えてるなんざ、珍しいな」
「ダサくて厨二臭かったんで、印象に残ってやした」
「じゃあ……お前の仲間じゃないのか」




近藤から尋ねられると、桂は眉根を寄せた。




「あんな野蛮な者たちと我々がつるむわけがなかろう。いきなり砲弾を撃つようなうつけと共にいれば、我々の命も危うくなるではないか」
「むぅ……まさか、狂乱の貴公子が真撰組と言葉を交わすような間柄だとは。貴様に少しでもこの国を壊す思想があれば引くつもりであったが──それも、無理のようだ」
「俺はもうただ壊すだけに、この力を振るうのは止めたのだ。──昔から変わらない友にそう、教えられた。大事なモノも出来た。貴様等のような輩は、放っておけん」






カチャ、と刀を構えた桂を見て沖田と土方は顔を見合わせ、息を吐いた。
二人に見られた近藤は、頷きを返す。
そして土方は襟に付けている小型通信機に声を向けた。




「目標変更。これから過激派攘夷浪士『狂魂党』の殲滅に移る。桂はとりあえず放っておけ」
「『狂魂党』の奴らは皆殺しにして良いですぜィ」
「貴様等……」




続けて通信機で全隊士に指示を飛ばした沖田と土方、それを許可した近藤を見た。
近藤は桂の横に並ぶ。



「勘違いするなよ。こいつらの相手が終わったら、次はお前だぞ」
「──ふっ。よかろう。この桂小太郎、武士として、お相手いたそう」





不敵な笑みを浮かべ、桂達はキッ、と目付きを鋭くした。







「俺の昔の思想に従ってこのようなことをしているのであれば……俺が終わらせてやるしかあるまいよ」
「桂に遅れをとるな、かかれぇぇぇえええぇぇえッッ!!」








男たちの声が、地を揺らした。












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