【銀色小話】

□節分
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「新八〜」




昼下がり、万事屋の玄関から少女の声が聞こえた。
わんっ、との鳴き声も。
トタトタ、ズシンズシン、と足音が部屋に近付いてきた。
がらりと開いた扉の中には、洗濯物を取り込んでいる新八。
そして社長机でジャンプを読んでいる万事屋オーナー、銀時がいた。
新八は取り込み終わった洗濯物をかごに入れ、その声で神楽に気付いた。


「あ、お帰り神楽ちゃん。定春の散歩、どうだった? ちゃんと粗相したモノは持って帰ってきたよね?」
「当たり前ダロ。ちゃんと袋に入れてきたネ。ほい」
「ほいって……待ってェェェ!! 投げないで! 洗濯物の上でぶちまけられたら大変なことになるから!!」
「チッ…」
「なんで舌打ちするの!? え、えっと、そこのゴミ袋に入れておいてくれる?」
「しょーがないアルな〜」
「なんで上から目線?」



ひくりと顔を引きつらせている新八を無視して、神楽は少年のわんぱくな夢よりもデカいモノをゴミ袋に捨てた。
神楽にひっついていた定春は、わふ…とあくびをして和室へ行った。



「疲れちゃったのかな、定春。……あ、そういえば神楽ちゃん、さっき僕のこと呼ばなかった?」



新八にそう言われ、神楽は思い出したようにポンッ、と手を叩いた。



「そうだったアル。実はさっき、なんか変なことしてるガキ共見付けたネ」
「変なこと?」
「何か、大豆を外と家の中にぶちまけてたヨ。もったいないから外に飛んできた大豆食べたら怒られたアル」
「大豆……あぁ、そういえば今日、節分だったね」





ピクリ




銀時のジャンプを捲る手が止まった。
しかし二人の子供は気付かない。
神楽は首を傾げた。



「節分、って何アルか?」
「節分っていうのはね、季節の変わり目は邪気が集まりやすいから豆撒き…語呂で『魔滅』、
つまり鬼に豆をぶつけることで邪気を追い払って、一年の無病息災を願うっていう意味合いがあるんだ。
鬼は外ー、福は内ーっていう掛け声をしながらね」
「鬼、アルか?」
「うん。邪気は鬼と見立てられてるんだ」
「だからガキ共は、鬼を追い払ってたのにそれを食べた私を怒ったアルか」
「うん、多分ね……っていうか神楽ちゃん、そんな拾い食いしちゃ駄目でしょ」
「拾ってないヨ。空中でキャッチしたアル。口で」
「口で!? さ、流石神楽ちゃん……。でも、そりゃ怒るよ。いろんな意味で」




呆れて良いのか感心して良いのか。
複雑な表情で笑う──苦笑する新八。
神楽は不満そうに唇を尖らせる。

「でも、もったいないネ。嫌な行事アルな」
「まぁ、そういう行事だから……あ、自分の年の数の1つ多く食べると体が丈夫になって、風邪をひかないっていう説も……」
「良い行事アルな」
「変わり身早っ!」



食べられると聞いて黙っている神楽ではない。
小さな大豆でも、食べられればそれで良い。
それほどに、最近の万事屋食卓事情はひどいのだ。
目を輝かせながら、ずっと黙っている銀時に近付いた。








「銀ちゃん! 私たちも豆撒きするア……」
「嫌だね」








即答。
神楽が言い終わる前に、拒否した。
銀時はジャンプから目を離さない。
新八は目を丸くして、洗濯物をたたんでいた手を止めた。
神楽はどこか冷たい銀時の言葉に、不愉快そうにきゅっと眉をひそめた。




「……何でヨ」
「大豆買う金がもったいない」
「これからしばらく酢昆布我慢するネ」
「嘘つけ。それでも駄目だ」
「何でヨ」
「なんででも」
「理由になってないアル。何でそこまで豆撒きするの嫌アルか」
「嫌だから」







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