【銀色小話】
□名前なんて
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『銀時』
名前なんていらねぇよ。
アンタが呼んでくれねぇなら。
『ぎんとき』
名前なんていらねぇよ。
呼んでくれたアンタはもう、いないんだからさ。
アンタの声はもう聞こえない。
アンタがいれば、何処へでも飛べたのに。
アンタを取り戻すために流した血は乾いていく。
アンタはもう、この目には映らない。
アンタを取り戻すための戦いは、ただの時間の一部。
誰も気にせず、忘れ、埋もれ、そして過去は踏まれていく。
仲間? 幕府? 世界?
そんなの全部、俺が護ってやるさ。
──嘘の色に染まっていく。
隣にいたいのに。
アンタはもう、手の届かないとこに行っちまったな。
『俺、攘夷抜けるわ』
そんなお前らみたいに、強い信念持ってたわけじゃねぇんだ。
あの人を取り戻すためってだけで。
それはもう叶わない。
悪ぃな、冷めやすいんだよ俺ァ。
『共に世界を変えよう、銀時!!』
もう止めてくれ。
また俺を振り回すのか。
勝手にやってくれ。
『そんな奴、ほっとけ。腑抜けた野郎に用はねェ』
お前にとって、俺はそんなもんなんだな。
知ってたけど。
俺の相手すんのに飽きたのか。
ありがてぇこった。
『じゃあな』
あぁ、また独りだ。
そう言や、血塗られた独りの俺を救ってくれたのはアンタや…お前らだったな。
でも感謝の言葉は言わねぇよ?
繋がりなんて、もういらねぇ。
俺ァ、独りで死んでいく。
『あっ、テメェ、それ俺の肉だぞ!』
『ちんたらしてるお前が悪いんだよ』
『銀時…行儀が悪いぞ』
『仕方ありませんねぇ。私のをあげますから』
『えっ、良いんですか?!』
『はい。…銀時、あとでお話ししましょうね』
『うげっ』
楽しかったよ、あの頃は。
笑い合える仲間が、家族が初めて出来たんだからよ。
──でも、そりゃあ魔法で見せてくれた夢だったんだな。
いつか崩れる。
そんなのは知ってたさ。
俺は鬼。
人間の中に紛れ続けることなんて出来ねぇよ。
だから去ったんだ。
お前らの前から。
俺が、お前らを捨てたんだ。
俺が捨てられたわけじゃない。
『…んとき』
名前なんて。
『…とき』
いらねぇよ。
『…き』
だってアンタは。
『 』
返事をしたって、もう答えてくれないだろ?
いつだったっけな。
最後にアンタと共に、笑い合ったのは。
なぁ、先生────……
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