【夜桜日記】

□第七章
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☆☆


ピンポーン


かぶき町にある『万事屋銀ちゃん』の玄関の前に、三人の黒服が立っていた。
ゴリラ似の男が呼び鈴を鳴らした。
すると中から返事が聞こえ、トタトタと近付いてくる。
そしてガラッ、と玄関が開いた。


「はーい……って、近藤さんに土方さん、沖田さんまで!!」


出て来たのは眼鏡がトレードマークの万事屋の従業員、志村新八。
突然尋ねてきた真撰組に、驚きを隠せないようだ。


「ど、…どうかしたんですか? 怖い顔、してますけど。何かしましたっけ、僕ら……」


新八の言葉で、自分たちが怖い顔をしていることに気付いた。
どうやらガラにもなく緊張しているらしい。
近藤は誤魔化すように、ははっ、と笑った。


「何、今日は万事屋に用があってな」
「銀さんに?」
「旦那、いやすかィ」
「あ、はい。とりあえず、あがって下さい」



丁寧に招き入れられた。
いつもバズーカぶっ放すどっかの生意気な隊長に見習わせたい。

近藤は背後で無言の睨み合いが行われているのを感じ取って、頬を引きつらせている。

何だこいつら。
テレパシーでも使ってるのか。
お邪魔しま〜す、と乾いた笑いを浮かべながら入る。

新八が部屋の扉に手をかけた時、目当ての声が聞こえた。
いつも通りの、気怠げな声が。
がらりと扉が開いて、視界が広がり。
銀色が目に飛び込んできた。


「ぱっつぁん、何だった? 新聞とかなら断りなさい。家賃回収ならさっさと逃げ……」
「よぉ」



入ってきた新八の背後にいる犬猿の仲とも言える男たちを見て、社長机でジャンプを見ていた銀時はあからさまに顔をしかめた。
綺麗な顔をしているのに、それはもう不快がありありと分かるぐらい。

そしてソファーで酢昆布をモサモサ食べていたオレンジ頭の少女も新八の方を見て、後ろの天敵に気付く。



「あぁッ!! サド、何勝手にこの家に入ってきてるアルか!! この神楽様の許可を得て入って来るヨロシ。許可なんて出さないけどナ」
「ふん、従業員風情が何言ってんでさァ」
「税金ドロボーに言われたくないんだヨ、チンピラチワワが!!」



ガルルルル、と犬と兎の戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。
犬と兎と言っても、前に『狂』が付くのだが。
『凶』でも可。

万事屋オーナーはいつものその戦いをガン無視して、ジャンプに目を戻した。
そして鼻に小指をつっこむ。
それを見て、新八はため息をはく。

「銀さん、だからそれ止めて下さいって。綺麗な顔してるのに、もったいない」
「追い出せ、新八」
「無視ですか。……はぁ。いや、でも何か用があるみたいですよ」
「用〜?」


ピンッ、と鼻くそを飛ばして胡散臭そうな表情をする銀時。
それに苛立たしげにピキリと片眉を上げる土方。


「客に対して随分な態度じゃねぇか、万年金欠ヤローが」
「あァん? 何? 喧嘩売りに来たの? 買っちゃうよ? 銀さん買っちゃうよ? 多串クン」
「誰が多串だ!! いい加減にしやがれ。何回言えば分かんだ。鶏か? 三歩歩いたら忘れる鶏か、てめぇは」
「誰が鶏だ、コノヤローッ!!」
「ま、まぁまぁ。トシも止めろ。俺らそんなことしに来たわけじゃないだろう?」
「……チッ」


まだ収まりはついていないのだろうが、土方は近藤に止められて仕方なく顔を背けた。
銀時もケッ、と吐き捨てる。
そして面倒くさげに、はぁ〜、と肩をすくめた。


「えぇっと、何なわけ? 用って。依頼? 面倒クサイ依頼はお断り〜。簡単かつ高額な依頼料を要求しま〜す」
「ぼったくる気かテメェ!!」


すかさず土方が食いついた。
もう条件反射の域まで達しているのだ。
銀時はニヤリとしてさらに続ける。


「真撰組なら超特別!! これから一週間の食費を請け負ってもらうだけでOK!!」
「それ絶対普通の依頼料より高いよな!?」
「任せて下せェ。きちんと払いやすぜ。……土方さんが」
「やっぱ俺かよ!?」
「毎度あり〜」
「ちょっ、待……っ」




かなり真剣に慌てる鬼の副長。
そりゃそうだろう。
何せ、大飯食らいの戦闘民族夜兎である神楽がいるのだから。
しかも真撰組の金だからと言って、遠慮なく食べるのは目に見えている。
一週間の食費なんて、どれだけのモンになるのか。

にまにまと笑う神楽に、土方は青ざめた。
そこに助け船を出したのは、苦笑している近藤だった。


「まぁまぁ。心配せんでも俺が払うさ」
「おぉ、流石ゴリラ。太っ腹ネ」
「やっぱゴリラ?!」



グスグスと隅っこで膝を抱えてキノコ栽培を始めた近藤、慰めようとしている沖田。
そして迷惑そうな冷めた目で見る新八。
その少年の視線に、いつも自分が愛を告げている女性と同じ蔑みの気配が混じっているのを感じ取って、近藤はいそいそと長椅子に座った。
それを見て、土方と沖田も近藤の両隣に腰を下ろす。

帰る気がないことが分かると、銀時は嫌々な雰囲気を醸し出しながら社長椅子から立ち上がり、長椅子の向かい側のソファーに座る。
そして神楽も隣に座り、お茶を用意した新八も銀時の隣に座った。




そうしてようやく、場が整ったのである。






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