【夜桜日記】

□第二章
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「こりゃあ…」


そう呟いて、沖田は黙った。
夕月のホモ日記、という軽い気持ちで読んでいたのに。
夕月の深い愛情が込められている。
想い人の悲しい過去さえも、愛おしいと。

しかしまさか、夕月やあの方とやらが攘夷志士になった直接的な理由が、幕府にあったとは。
養父を幕府に捕らわれた、屍を喰らう鬼と呼ばれていたあの方の気持ちは、いかようなものだったのだろうか。
想像するだけで、歩みを止めてしまいそうだ。
沖田は神妙な面持ちで新たな頁を開く。


**

だんだん仲間が増えてきた。
小太や晋、あの方達の強さに惹かれた者達だ。
本当に、強い。
私達は全幅の信頼を置いている。
しかし気掛かりなことが。
仲間があの方を畏怖の念で見ているのだ。
信頼とは裏返しの念だ。
そしてあの方は陰でこう言われている。

まるで鬼のようだ、と。

そしてあの方に二つ名が付いた。
あの方が望んではいないであろう、その二つ名は瞬く間に広まり、今や小太や晋や馴染み深い限られた者しかあの方の本名を呼ばなくなった。
護りたいのに、私には力が足りない。
申し訳ありません。

**



最後の一文の墨が濃い。
夕月はどのような表情でこれを書いたのだろう。

名を呼ばれなくなった想い人。
鬼だと言われていたのは、勿論その想い人も知っていただろう。
その人の気持ちを考えると、つい眉根が寄ってしまう。






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