【銀色の花】

□第一.五章
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★★



外界からの光という光が遮断されたある屋敷のある一室。
そこにあるのは仄かに揺れる、小さなろうそくの火。

ゆら……

一際大きく炎が揺れた。
シルエットからも分かる恰幅のいい男は、部屋に入ってきた人物に目を向ける。
その人物は編み笠を深く被り、顔が見えない。
もっともこんな暗い中では、編み笠など無くとも、まともにお互いの顔など見えないが。


「……まだ見付からんのか」


男は低い声でその編み笠の人物に詰問するように尋ねる。
編み笠は、ヒョイッと肩をすくめた。


「駄目ですね。誰も、何も、知りません。『白夜叉』の存在自体、知る者はいなかった」


声変わりの済んだ若い男の声だった。

ぎり……

暗闇の中、歯ぎしりの音が嫌に響く。
編み笠の若い男は、目の前の男を如何様な表情で見ているのだろうか。


「早く、早く捜さねば……。上に気付かれてしまう…」
「……何か、特徴などはないのですか?」


編み笠は男に尋ねる。
確かに尋ねすぎて、変な噂になっているようだし、早く見付けなければこちらの計画も崩れ、全てが終わる。
これは賭けなのだ。
目の前の男は何かを思い出すように考え込んでいるようだ。
そしてなにか思い出したのだろうか。
男は再び編み笠に目を向けた。


「確か、白夜叉の謳い文句があった。その中に……銀髪をなびかせる、といったような言葉があったような……」
「銀髪……ね」


編み笠は軽く頭を下げて部屋から出ていこうとした。
しかし襖の前で足を止めて、振り返った。


「そういえば、一つ確認したいのですが。……白夜叉捕縛のためなら、何をしても?」


男は編み笠に強い眼光を向けた。


「構わん。……やってこい、桔梗」


編み笠──桔梗は、にいぃ…と口元を吊り上げて頭を下げて部屋を出る。


「楽しみだなぁ……」



そんな呟きを風に乗せて。


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