【追憶の邂逅】

□第四話
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☆☆


爽やかな青が空に広がる。
緑に囲まれ、朝日が木漏れ日となって地に降り注ぐ。
さわさわと風が木を揺らし、鳥の声が清閑な空間に染みわたる。

銀時は布団から出て、縁側でその声を聞いていた。
ふと、その鳴き声の方に目を向ける。
すると、バサバサと羽ばたく音に変わり、二つの影が飛び去った。
その姿を目を細めて見上げる。
別に見られたから飛び去ったわけではないのだろうが、それでも己が起因したのかと思ってしまう。


昔から、こうだった。
何をしたわけでもないのに、姿を現せば逃げられ、目が合えば石を投げられ。
そういうのが面倒で戦場跡地に身を寄せれば、『屍を喰らう鬼』なんて異名まで付けられ、時には殺されそうになって。

そんな時にあの人に──先生に、出逢って。
高杉や桂のような仲間を得て。
嗚呼、人間ってこんなに温かいのか、なんて言うと先生は微笑んで。
貴方もとても温かいです、なんて。
人間なんだと。
皆と同じように、温かい、と。
先生は知らない振りをしてくれたけれど。
涙目ぐらいには、なっていたと思う。

なのに、先生は連れて行かれて。
そん時先生は。
仲間を護って下さい、と。
小指を立てて約束して。

先生を取り戻すために剣を取って。
先生との約束のために刀を振るって。
なのに。
なのに。



銀時はぐっ…、と目を瞑る。



約束を守って。
仲間を護って。
その先が、『無』なんて。
あんまりだろう。

何故、先生が死ななければならなかった。
何故、約束を守れなかった。
何故俺は。
狂っていく高杉や桂を見捨てて。
のうのうと一人。
逃げている──?


銀時は、ぼんやりと目を開けた。
紅い瞳が緑を映す。


ずっとそんなことを考えていたら、何だか面倒になって。
嗚呼、もういいか、と。
一人で…独りで、息絶えようか、と。
白夜叉の──鬼の俺にはお似合いか、と。
目を閉じたのに。


銀時は座りながら柱に寄りかかって、己の手を握る。


まだ温かい。
何故、温かい。
温かいのは人間の、生きる者が持つ命の証のはず。
ならば何故、死のうとした…精神的に死んだも同然の己が、その証を持っているのだ。
何故。



その時、すー…っ、と襖が開く。
気配で気付いてはいたが、銀時は反応しなかった。
その足音が縁側に近付いてくる。
そして銀時の後ろで止まった。


「おい、そこで何やってやがる」


不機嫌そうな声。
ちらりと後ろに目をやる。
雰囲気は背の低い俺様気質な幼なじみに。
髪はクソ真面目な幼なじみに似ている。
コイツを見てると、あいつらがチラついて仕方ない。


「……何処で何やってようが、てめぇには関係ねーだろ」
「飯持ってきてやったんだろーがよ」


ピシリと青筋を立てながら言う男──土方。
さっさと食え、婆さんに迷惑かけんな、という土方の言葉に内心舌打ちして、銀時は緩慢に立ち上がった。




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