【追憶の邂逅】

□第一話
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☆☆



「なぁんで俺が土方コノヤローと一緒に買い出し行かなきゃなんないんでさァ」
「すまんなぁ、総悟。他の奴らは暫くお世話になる家の老夫婦の手伝いをしてるし……それに俺は、お前と行きたかったんだ」
「近藤さんと買い出し行くこと自体は構いやせんぜ。ただ、瞳孔開きっ放しヤローと一緒に居たくないだけでさァ」
「あァ? 嘗めたクチ利いてんじゃねぇぞ、総悟」


栗色の髪の元服は済んでいそうな少年、沖田総悟。
申し訳なさそうに謝る、近藤勲。
頭頂部で流れるような黒髪を結っている青年、土方十四郎。
この三人の手には、食料が入った袋が握られている。


真撰組という組織の中核を担うことになった近藤を始め、近藤を慕い、付き従う者達は武州から江戸へと向かっていた。
進んで行く内に暗くなり、さて休むかとなった時、気付いたのだ。
泊まる場所がないことに。
仲間と楽しく、真撰組のことを語らい進んでいくだけで、宿のことがすっかり頭から抜けていた。
かなり前に通り過ぎた所には宿があったはず。
しかし、戻るのは体力的に辛い。
かと言ってこの先にあるかも分からない宿を目指して更に歩くのもどうかと思う。
頭を抱える近藤達。
そんな彼らの目の端に、仄かな光。
その光を目指して歩くと、古びていながらも温かい光を放つ一軒家。
無礼を承知で戸を叩き、事情を話すと、家主である老夫婦は快く頷いてくれた。
そうして近藤達は、体を休める場を得たのだ。




そしてその翌日の昼現在、世話になった礼として老夫婦のために各々何かをしようと決まり。
近藤、土方、沖田は三人仲良く──とは言えないが、川沿いの少し先の小さな店で買い出しをして、片手に買い物袋を持ってその家に戻っているのだ。
買い物袋三つ分。
実際買い出しなら近藤と土方だけでも事足りたのだが、沖田の所在なさげな表情を見て近藤は沖田に共に来てくれと頼んだのだ。


爽やかな川の流れる音を聞きながら、歩を進める。
土方のその言葉に、沖田は肩をすくめた。


「嘗めたクチ利くな、ねィ…。この前まで俺のこと先輩って呼んでたヤローの言葉とは思えねェや」
「お前の上司になんだぞ。当たり前だ」
「もう副長気取りですかィ。あーやだやだ、これだから気の早い男は嫌いなんでィ」
「ンだと?」
「やりますかィ」
「待て待て、トシ、総悟。今は早くこれを持って帰らなきゃだから!」


慌てて仲裁する近藤は、自身が持つ買い物袋を示す。
二人は近藤を見て気まずそうな、申し訳無さそうな、拗ねたような複雑な表情で、睨み合っていた目を互いに逸らした。

沖田は道端の小石をまるで小さな子供のように蹴る。
コンッと軽い音がして、コロコロと小さく跳ねながら道を滑っていく。
今度はその石よりも二回り以上大きい石を蹴る。
すると無意識に強くしてしまったのか、今度は勢い良く転がり、川辺の土手を滑り落ちていってしまった。
そして。


「あ、ヤベ」


土手で眠っているかのように顔を伏せている白髪の人間の頭に。
ゴッ、と落ちてしまった。


「総悟?」


近藤と土方が沖田の声に振り返る。


「何がヤベェんだ?」


土方は沖田がまた自分に何かしたのか、もしくはしようとして失敗したのか、と思い至って少し警戒している表情だ。

別に何でも無い、と言っても良かったのだが。
これから仮にも警察機関に属する人間になるのに、石で人死に出しましたなんて、寝覚めも悪いし居心地も悪い。
そう自分の中で完結した沖田は、潔く土手で顔を伏せている白髪の人間を指差した。


「あの人の頭に石落としちまいやした」
「えっ!?」
「あの人?」


近藤は純粋に驚いたように、土方は片眉を上げて土手の下を覗き込んだ。
そして固まる。
白髪──老人?


「……総悟君、あの人の頭に落としたの?」
「へェ」
「どんくらいの石だ」
「こんくらいでさァ」
「……当たったらそれなりに痛い大きさだな」
「土方さんに投げる時に使うぐらいの大きさですかねィ」
「当たったんだよね、あの白髪のご老人に」
「ゴッ、って擬音語が聞こえそうなくれぇに、がっつり」
「なのに何の反応もねぇな」
「ピクリとも動きませんねィ、そう言えば。まるで死ん…」


「大丈夫ですかァァァァアア!!」


ずざぁぁぁッ、と近藤は叫びながら土手を滑る。
土方も近藤に倣って買い物袋を地面に置き、土手を滑った。
沖田は難無く滑る土方に眉根を寄せ買い物袋を置き、二人に比べてゆっくり降りていく。



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