【突発文&お知らせ&企画】

□☆銀時二重人格設定
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何もない。
暗くて、ジメジメしていて。
光と言えば、隙間から入る少しの日の光。
誰も好んで近付かない祠。
そんな中に、一人の少年。
銀髪に、紅い瞳。
そして柱と繋がっている足首に繋がれた鎖。
物心つく前からここにいた。
何故、なんて考えたこともない。
自分は最初から。


崇められ、敬われ。
疎まれ、忌われる。


そんな存在なのだから。
それにここに存在するのは、自分一人ではない。


『──おい、死んだか』
「……生きてる」


一人の少年の声が祠に木霊する。


『存外お前もしぶといな。俺はすぐに死ぬと踏んでたんだが』


その声なき言葉に、少年は弱々しく笑った。


「俺が死んだら、お前も消えるんじゃねぇの?」
『お前が死んだら、俺がこの身体、使ってやるよ』
「図々しいこって」


少年は壁にもたれ掛かって息を深く吐いた。

自分の中に、もう一人いる。
明確に。
会話出来るまでの存在感。
そう気付いたのは何時だっただろうか。
物心ついた時から?
それより前か、後か。
思い出せないし、実際そんなことはどうでも良い。
《彼》は口は悪いし、どこか上から物を言う。
しかし、《彼》のおかげで言葉は自然に覚えられたし、話していると気も紛れる。
紛れる気というものが、自分にあればの話だが。
いつも通り、少年は何も考えずに隙間から入ってくる日の光を眺めていた。


──ザワッ


突然。
己のモノではない感情が胸中に広がる。
少年は胸に手を当てた。


「…おい、どうした?」
『…気ィ付けろ』
「は?」


《彼》のいつもより張り詰めた言葉が頭に響いた瞬間。
ガッ、と入り口が開いた。
どかどかと、見たことのない男達を見て目を見開く。
村人でもない。
いや、村人はいるにはいる──男達に引きずられ、身体を真っ赤に染めた状態で。
男は声も出せない少年が目に入ったのか、騒ぎ出してニヤニヤ笑い始めた。


「おい、珍しい毛色がいんぞ」
「高く売れるんじゃねぇか?」


ドシャッ、と引きずっていた村人を棄てて少年に近付く。
少年は弱った声で精一杯叫ぶ。


「近付くんじゃ、ねぇ…っっ!!」
「ハッ。紅い目…こりゃあ、マジで高く売れそうだな」
「珍しいから隔離されたわけだ」
「鎖が邪魔だな。オイ、鍵は?」
「さぁ? 村人に訊こうにも、残らず殺しちまったしなぁ」


──村人を、殺した?

男達のその言葉に、この世に生を受けて初めての感情───怒りが、湧き上がった。

疎まれようが、隔離されようが、食事は与えてくれた。
殺さないでいてくれた。
《生》を奪わないでいてくれた。
たとえそれが、恐れから来るものだとしても。
それだけで、十分だった。
恩さえも、感じていたのかもしれない。
なのに。
ぐっ、と拳を握る。
すると話し合っていた男の一人が、スルリと刀を抜いた。
少年はその音に顔を上げ──その男の言葉に、冷たいモノが流れ落ちる。


「鍵がねぇんだったら、足首斬り落としゃいーか」


あぁ、これは。
何の感情だったのだろうか。
誰の、感情だったのだろうか。
身体がその感情に支配され、意識が───強制的に、引っ張られた。


「──おいおい、何言ってやがんだ、お前ら」
「あ? ──がッは…ッッ」


カラン、と刀が地に落ちる音がして。
少年の前にいた男が、倒れた。
それを見て、先ほどとは違う意味で騒ぎ始める男たち。
弱々しく叫ぶしか出来なかった少年が、今、立ち上がっている。
雰囲気が変わったのを感じたのか、男たちは各々抜刀した。
少年は口の端を上げる。


「コイツも随分人間らしくなってきたもんだ。今まで感情らしい感情を放棄してきたのに。まぁ、でも……外に出られるとは、好都合だ」
「何言ってんだ、このガキ……」
「あぁ、それとな」


刀を向けられても少年は慌てることなく、己が倒した男が落とした刀を拾って。
いとも簡単に。
鎖を、断ち切った。
そして凄惨に、残酷に笑って。


「この身体は《俺》のモンだ。──勝手に傷付けようと、してんじゃねぇよ」


紅い瞳を、獰猛に光らせた。




────────




うっすらと、目を開ける。
頭がぼんやりとして何も考えられない。
しかし段々と定まっていく視点が周囲の『モノ』を捉えた時、ハッとする。
四方八方、全てが赤で染まっていた。
そして手には、鞘に収まった刀。
足の鎖も、断ち切られている。


『起きたか』
「……お前が…いや、俺がやったのか」
『お前の身体がやった』
「…入れ替われるんだな」
『だが、やり方が分かんねぇ。乗っ取れる好機だと思ったんだけどな』
「言ってろ」


血の海の中で一人言葉を紡いだ。
少年は暫く黙って自分の身体が斬ったであろう、斬り口の綺麗な屍を見つめる。
そして思い切ったように足を進め、外へと踏み出した。
初めての、外の世界。
干からびた土に、少しの雑草。
見覚えのある数人を含む村人達が作った赤い血飛沫。
少年は自分が持つ刀に目を向け、再び前を向き、口を開いた。


「なぁ。俺に──戦い方を、教えてくれ」


外で生きるための方法を。


そう重なって聞こえた声に、中の奴が笑った気がした。
それがどういう種類の笑みなのかは、外に生きる自分には、分かりようもなかったが。





☆☆

俺はな、外の世界にはたいして興味はない。
だが、この身体を傷付ける奴は排除する。
仲間? 家族?
知らないな。

銀時の護りたいものが。
俺の護りたいものだとでも思ってたのか?



「つーことで、死んでくれ」



響いた叫び声は、一体誰のモノだったのか。
外にいながら何かに囚われている《彼》は知りようもなかったし。


知ろうとも、しなかった───……









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