頂き物《小説》

□視線の熱
1ページ/2ページ




見つめられる視線が、熱い。



授業中の風景がそこにある。
白衣を羽織った教師が教壇に立っていた。
授業の内容は白衣からわかるだろうが化学だった。
基本、理科室で実験をするのが常だが、今日は板書が主だったため移動は無しとなった。

その教室の中で、一つの攻防が行われていた。
一人の男子生徒が教師をただひたすら睨んでいるのだ。
そしてその教師は、男子生徒の視線をただひたすら無視している。

周囲の生徒は気づきもしないだろう。
・・・いや、男子生徒が殺気っ立っているのは察しているだろうけど。
授業を真面目に受けている、風にも見えなくもないが視線の先は黒板よりも教師の方を見詰めている。
視線を受けている本人は殺気というより、別の意味合いを感じてならないのだが。
その行為によって彼のあずかり知らぬところでは教師と男子生徒とは犬猿の仲と周囲の認識はなっている。
別に自分たちは犬猿の中だといった覚えはない。
肯定した覚えはないし、けれど否定もしない。
それに教師にとってはそれは大いに好都合だった。
男子生徒―――土方とは恋人同士なのであるのだから。

キーンコーンカーンコーン

漸く授業の終わりを告げるチャイムに心の中で溜め息をつく。

「・・・じゃ、ここまでー。残りの授業も頑張れよー」

土方が立ち上がるよりも先に素早く教材を持ち教室を出た。
そしてドアも閉めることで視覚的と心理的に行く手を遮る。
生徒に不審に思われないように、あくまで自然に。
けれど伝えるべき相手に伝わるように。

「・・・はあぁぁぁ」

まだ生徒の出てこない廊下で溜め込んでいたものを吐き出す。
胸につっかえているものはそう簡単に晴れないけれど。

(・・・寝よう)

教師はほぼ私用化とされている理科室の隣にある準備室へと向かうことにした。

「銀時!廊下を走るんじゃないよ!」

「うっせーよ!早歩きだクソババア!」



教師―――銀時は八つ当たり気味に理事長に怒鳴り返した。




.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ