頂き物《小説》

□苺の花
1ページ/1ページ






「銀時、明日は出かけましょう」
「どこに?」
「そうですね・・・いいところですよ。楽しみにしていてくださいね?」
そう会話したのが昨日のこと。
この日塾は休みで、松陽の誘いによって出かけることとなった。
どこへ行くかについては何も教えてはくれなかったが、松陽と一緒にいられることが何よりも楽しみだった。

いつもの散歩より少し遠出で見慣れない景色にいくつも目に留まった。
その様子に松陽は目を細め、きょろきょろ動く赤い瞳の先に視線を移していく。
穏やかな時間。
やがて目的地についた。
辺りはいくつもの白い花が咲き誇っていた。
銀時は思わずその花の前にしゃがみ込み。
「綺麗だ・・・」
「この花は、何の花だと思いますか?」
「・・・ただの、白い花なんじゃねえの?」
初めて見るのに、何の花かわかるわけない。
そう目で訴えると、松陽は笑いながら小さな花に手を添えた。
「あなたの好きなものです」
「俺の?」
「苺です」
その単語に目を丸くさせた。
「苺!?」
「ええ、銀時の大好きなあの甘い苺の花です」
目の前の白い花と松陽を交互に見た。
「あの真っ赤なやつが、これ?」
「実になる前の苺は白いのですよ」
「はあぁ〜、へえぇぇぇ」
実の状態しか見たことのない為、驚きと一種の感動を覚えた。
食い入るようにその花を見つめていると、頭上から優しげな声が降ってきた。
「・・・銀時はこの花のようですね」
「?」
言葉の意味が理解できず松陽の顔を見上げると、逆光で眩しくよくわからない。
それでも口元は微笑みを浮かべていた。
「実が赤くなる頃にまた一緒に来ましょう。今度は晋助と小太郎もつれて・・・」

***

依頼を終え帰宅した銀時。
あの二人はまだ戻って来ていないのか部屋には誰もおらず、代わりに床に一冊の本が鎮座していた。
花の写真がプリントされた表紙。
これは確か、神楽が最近持ち歩いていた物だ。
お妙辺りから借りたのだろう。
『花言葉辞典』
たとえ中身がマウンテンゴリラの酢昆布娘でも、女の子らしくこういうのに興味を持ったらしい。
もっとも、こうして床にほったらかしたまま出かけたということはそろそろ飽きる頃だろうが。
「・・・花言葉、ねぇ」
なんとなくパラパラとページをめくっていると、かつて先生と見たあの白い花があった。
あの頃は本当に白い花が真っ赤なイチゴになるのかが不思議で仕方なかった。
「苺の花。花言葉は、『尊重と愛情』、『甘い香り』、『誘惑』」
一つの花にこんなにも多彩な解釈があるのだと感心しながら、いつの間にかそれを口にしていると、後の項目にはっとして食い入った。
「『無邪気』・・・『幸せな家庭』」

『銀時はこの花のようですね』

「・・・『あなたは私を喜ばせる』」
あの時、自分を見ながらいった先生の言葉、表情が浮かんできた。
自分は、先生に何かしてあげられただろうか。
与えられるばっかだったに、何かができただろうか。
先生を・・・喜ばせることができたのだろうか。
堂々巡りだってことはわかっている。
今更そう思い深けたところでどうにもならないこともわかっている。
それでも、そう思わずにはいられなかった。

***

「ただいまヨ〜」
「あれ?銀さん戻ってたんですね」
「・・・おう」
「どうしたんです?」
「いや・・・おめえら、明日は出かけんぞ」
「どこ行くネ?」
「ああ・・・そうだな、いいとこだ。楽しみにしてろよ?」



【完】

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ