頂き物《小説》
□銀の幸せ
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曇天の下に俺は立っていた。
視界に広がる、過去に何度も見た景色。
日の射さない灰色の世界。
目の前には銀色の仔鬼。
ボロボロの着物に身長には合わない長刀を抱き寄せ、仔鬼は立っていた。
銀色の髪をなびかせ、血を吸ったような緋色の瞳はじっと俺を見据えた。
「…しあわせ?」
たったそれだけ、仔鬼は問いかけた。
俺はそれに苦笑しながら応えた。
「どうだろうな。…まぁ、そうなんじゃねぇの?」
曖昧な応えに納得しなかったのか、眉を寄せた。
「俺の周りは騒がしくてよ。地味な眼鏡に大食らいな素昆布娘、税金泥棒のマヨにドSにゴリラなストーカー。他にも色々…本当マシな奴がいねぇ」
心底嫌そうな顔をすれば、仔鬼もつられて嫌な顔をする。
まるで鏡のようだと頭の隅で考えながら、気を取り直して真っ直ぐ見据えた。
「…でもよ。皆、俺の大切な奴らだ」
仔鬼の目が揺らいだ。
「命をかけてでも、守りたい奴らだ」
「…守る」
無機質だった緋色の瞳に火が灯る。
「ああ」
「…しあわせに、なれる?」
「さぁな。おまえの頑張り次第じゃね?…ま、なんとかなるでしょ。おまえは、俺なんだから」
俺は仔鬼に、『坂田銀時』になる前の俺にいった。
―――
PiPiPiPiPiPiPi…。
「…」
目覚ましの音が鳴り響く。
「…へんなゆめ」
【完】