【追憶の邂逅】

□第一話
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近藤はかなり青ざめて川辺に降り立ち、その男に駆け寄る。


「大丈夫です、か……って、アレ?」
「近藤さん? どうかしたのか」
「既に白骨化したヤツでしたかィ。やりぃ、俺のせいじゃねェや」
「ちょっ、何恐ろしいこと言ってんの?! じゃなくて、ほら、この人…」


近藤に少し遅れて降り立った土方と沖田も、その人物に近寄る。
そしてその人間の顔を見て、目を見開いた。


「若けぇな…」
「土方さんと同じくらいですかねィ」


若い。
沖田の言葉通り、土方と同い年くらいだろう。
それによく見ると、白髪ではなく、銀色──銀髪。
しかしその色もさることながら、その青年の風体が変わっていた。

白装束に刀。
そして。
腹の部分が異常に赤で染まっている。
常人ならば普通に死んでいるであろう出血量。


「攘夷志士、か…?」
「あ〜、そういや昨日寄った市場で、近くでゴタゴタがあったとか聞きやした」
「そうか……ほんの前までは英雄だった攘夷志士も、今や幕府や世間から厭われてるんだから…本当に世界というのも、ままならんなぁ…」


眉を下げて心を痛めている表情の近藤。
力の抜けたその青年の顔を、供養するかのように触れ──目を見開いた。


「…温かい」
「近藤さん…?」


近藤は何かを呟くと、そっと首筋に指を当てた。
そしてバッ、と立ち上がる。


「トシ、総悟、手伝ってくれ」
「何をですかィ?」
「こいつを、あの家に運ぶぞ」
「本格的な供養でもするつもりか?」
「生きてんだ」
「…生きてる?」
「まだ、生きてるんだ、こいつ。だから、助ける」
「……近藤さん。俺ァ、アンタのそういう所、嫌いじゃないですぜ。でも、コイツは攘夷志士でさァ」
「いずれは俺達が、斬らねぇといけなくなるかもしんねぇぞ」


沖田と土方の返事は、決して近藤の行動を促すようなものではなかった。
だが。


「それでも。目の前でくたばりそうな人間を見捨てるような侍には、なりたくない」


よいしょ、とその銀髪の青年の腕を自身の肩に掛ける。
その姿を見て、その言葉を聞いて、二人は顔を見合わせて息を吐いた。
しょうがないな、と言うように口の端を上げて。
土方は近藤に歩み寄る。


「近藤さん、俺がソイツ負ぶる」
「え、しかし…」
「総悟、てめぇは俺の買い物袋持て」
「俺に命令すんじゃねェぞ、土方コノヤロー」


土方の指示にそんな言葉を返しながらも、土手を登って買い物袋を二つ手にする沖田。
土方は器用に青年を背負う。
近藤はそんな二人を、状況が掴めずにただ見つめていた。


「近藤さんは、コイツの刀持ってくれ。あと土手を登る時に支えてくれ」
「あ、おい、トシ?」
「ったく…礼するために買い出し行ったっつーのに、何また荷物抱えてんだ。これ以上無理だとか言われたらどーするつもりだ、アンタは」


近藤は土方と青年を支えて押しながら土手を登った。
そして買い物袋を右手、刀を左手に持ってその言葉に答えを返す。


「そん時は、俺が外で野宿するだけさ」
「んじゃあ、三人仲良く雑魚寝するか」
「土方さんと仲良くなんざ、反吐が出らァ」
「うっせーよ。比喩だ比喩!!」


ギャーギャーと言い合う二人の背を見て、近藤は泣きそうに笑った。
真撰組は、攘夷志士を斬る集団。
まだその組織が創られていないとしても、上に知られたら良い顔はされないだろう。
でも、付き合ってくれる。
共に歩んでくれる。
本当に、有り難い。

そして近藤は、段々と激しくなっていく口論を止めるべく、二人の後を追った。



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