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□月の光
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「ひゃー…真っ暗だァ…」



思わず呟いた言葉が、廊下の奥にすーっと吸い込まれていく。
昼間は狭いと感じる見慣れた校舎も、日が落ちた闇の中では、底も端もない、どこまでも広がっているように見える。

暗闇に目を凝らすと、見えてはいけないモノを見てしまいそうで、目的の場所へ足を速める。

やがて白く浮かぶ自クラスの表札を見つけ、外からのわずかな明かりを頼りに席に向かう。



「ん〜…っと、あった」



机の中にお目当ての電子辞書を探し当て、ホッとひと安心

した、そのときだった。



「オイ、何してる」

「?!」



暗闇の中から男の人の声がして、咄嗟に上げた顔に、真っ白な光が直撃した。



「まぶしっ」

「何だ、おまえかギズモ」



まばゆい光がわたしの顔から退くと、そこには懐中電灯を持った服部先生の姿がぼんやりと浮かび上がった。



「なにするんですかっ、びっくりした〜〜」

「わり。っつーかほんとに何してんだこんな時間に」



廊下にいた先生が、教室の中に入ってくる。
もう下校時間とっくに過ぎてんだろーが、と自分の腕時計に光を当てた。

服部先生が言うように、校内にもう他の生徒は残っていない。



「宿題で使う電子辞書忘れちゃって。部活終わったんで取りに来たんです」



コレ、と電子辞書を見せると、「あぁ、そーかい」と先生は襟足を掻いた。



「先生は見廻りですか」

「そー。1ヶ月に一回、当番で回ってくるんだよ。早く帰りてーっつのに」



服部先生は心底面倒臭いという風に、ハァ〜〜ッと長いため息をついた。



「もう暗ぇし、外まで送ってやるよ」

「え!でも先生 見廻りの途中じゃ…」

「こっち優先だろ。ギズモは生徒だし、女子だし、一応」

「(一応、って…) あ…、ありがとうございます」



ついて来い、と踵を返した先生を、慌てて追って教室を出た。
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