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□痛み分け
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『ごめん。今はバスケに集中してぇから』



一世一代の告白は、見事に砕け散りました。















「ギズモ、信長にフラれたんだってね」

「え」



翌日。朝練が終わった後にいきなり神さんに言われて、持っていた洗濯カゴを落としてしまった。



「わ、大丈夫?」



水道で顔を洗っていた神さんは、濡れている自分を拭くより先に、地面に落ちた洗濯物を拾ってくれた。

土を払い落とし、「はい、」と渡される。



「あ…ありがとうございます」

「違った?」



…違わないですけど、なんで、そんなこと、神さんが知ってるんですか。

告白したことはおろか、想いを寄せていたことすら誰にも話していないのに。



「おかしいな。信長本人が言ってたんだけど」














「信長ァァァァァーーーー!!!!」



部室を勢いよく開けると、部員たちは着替えている最中で、下ろしかけたズボンをサッと上げたり、既に遅い者は急いでタオルを掴んだ。



「ギズモ!おまっ、お前、部室を開ける時はノックしろと…!」



牧さんが何か言ったけどそれどころじゃない。
信長目掛けて一直線、一番奥のロッカーで青い顔をしている奴の胸ぐらを掴んだ。



「アンタ神さんに言ったでしょ!!人の気持ち踏みにじるのもいい加減にしなさいよこのサル!!!!」

「はあ?!何言って…」



私が怒鳴ったことで信長はちょっと腰が引けてるけど、眉を寄せて反論し始めた。



「私がどんな気持ちで…」



くそ、視界がにじむ。

あぁ、なんでこんな奴好きになっちゃったかな。
バカでデリカシーなくて、頭の中バスケのことでいっぱいで。

他のことに目が向かないくらい、バスケに夢中になってるなんて、マネージャーとして嬉しい限りだ。


ぜんぶわかってる。
信長の目には初めから私なんて映ってない。彼の世界に私はいない。

でも、私にはアンタが焼き付いて離れないんだ。
目をつぶってても浮かぶんだ。


どうしようもなく好き。
フられて、あろうことかそれを暴露されて、掴みかかる私の手を解こうとする今でさえ、まだ全然好き。

どうにかしてよ、



「責任とれバカ━━…、!」



突然、ぎゅうっと圧迫感が襲ってきて、呼吸が苦しくなった。

目の前には海南のジャージ。
…背中に腕が回ってる。


なにこの状況。これじゃあまるで、



「ごっ…ごめん。責任は、とる」



耳の近くで信長の声。
もしかしなくても、抱きしめられている。



「そんな顔させちまったら元も子もねーよな…」



ぱっ、と私の身体から離れた信長の顔は、珍しく申し訳なさそうな、沈んだ色をしている。

そっちこそなんて顔してんの。



「昨日…ギズモから告られて、スゲー嬉しかった。けど、ぶっちゃけそれは俺から言いたかったっつーか…」



ヘアバンドのあとのついた前髪はおでこ全開で、手櫛で下ろそうとするけど浮いちゃってる。
さっきから手の甲で顔を隠してるけど、赤くなってるのバレバレだ。



「バスケに集中したい、っつーのも、もちろん嘘じゃねーけど、いっぺん言ってみたかったし…!結局あの後神さんに相談して…それで話しちまって…」



ほんとごめん、と頭を下げる信長。

一方私は冷静に彼を見つめながら、まだ頭が追いつかなくて、言葉が出てこない。


信長に抱きしめられて、信長も私のことが好きで、それで…



「改めて言わせてくれ。俺、ギズモのこと━━━」

「じ…神さーーーーん!!!!」



信長の言葉を聞かずに慌てて部室を飛び出した。
困った時の神さん。相談できる神さん。

後ろから何か叫ばれたけど、振り返れない。
顔熱い。顔だけじゃないや、身体中火だるまみたいにあつい。




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「信長、ギズモに告白したんだってね」
「え」

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