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□ぐるぐるカーテン
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私が学校に行く理由は、『彼』に会うため。


校門を少し過ぎた先に、彼が歩いているのが見えた。
黒い学校鞄には『LOVE LOTION LOVE LOFT』のステッカー。

間違いない。


一旦その場で立ち止まり、ひとつ深呼吸をした。
息を整え、口を開く。



「東城く──…」

「若ァァァァーーー!!」



私が声をかけるより早く、東城くんが速度をあげて前方へ走り込んでいった。

その先には彼が付き慕う主・柳生久兵衛。
お妙ちゃんと並んで歩いていた彼女は腹心の場違いなテンションにも狼狽えることなく、慣れた様子で片手を挙げて応じた。



「朝から元気だなあ…」



さっきまで背筋を伸ばして颯爽と歩いていた彼が、こうも簡単に一変してしまう一面が、私は好きだ。

朝からこうして好きな人の姿を拝み、教室に着いた後もずっと見つめ続けていられる。運の良い時なんて一言二言会話できる場合もある。
それだけでその一日は掛け替えのないものになって、家に帰ってからもふと思い返しては頬が緩んでしまう。

嫌なことがあったって、東城くんのことを考えれば乗り越えられる。身体中から力が湧いてきて、何でも出来そうな気持ちになる。

まぁ実際、考えすぎて手に付かないこともあるんだけど。


それくらいの大きな幸せの力を、彼は私にくれるのだ。



(でも出来れば、あの緩んだ笑顔を私の前でも見せてくれたらなー…なんて……)



「やっぱり贅沢だよね、へへ…」



妄想にふけっていたところを、後ろからポン、と肩を叩かれた。



「はい、遅刻~」



バインダーに挟んだ紙に何かを書き込み、スタスタと歩き去っていく松平先生。

いつの間にか周りには誰もいなくなっている。



………先生、今何て?
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