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□虹
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ブチブチッ、
抜くというよりちぎるに近い感覚で草むしりをしていると、プール槽の中から私を呼ぶ声がした。
「そちらの掃除は終わりましたか?」
「んーー終わった終わった」
私は立ち上がり、パンパン、と手を払った。
裸足にコンクリートタイルが熱くなってきたところだ。
「では中の掃除を手伝っていただきたいのですが」
「濡れるよね、そこ」
「ええ」
「私制服なんだけど」
「まずそれがおかしいと思いますがねぇ」
鬼鮫はデッキブラシを片手に半袖・ハーフパンツなのに対し、私は日焼け防止の長袖シャツに夏用スカートという出で立ちだ。
「とりあえずスカートを脱がれたらどうです?」
下に履いてるんでしょう、と見上げながら言う鬼鮫をひと睨みし、スカートの裾を手でおさえた。
顔色一つ変わらないのが憎たらしい。
「早く終わらせて帰るよっ」
ので、その場で堂々とスカートを脱いでやった。
鬼鮫のより幾まわりか小さい、学校指定ジャージのハーフパンツ。
スカートをベンチに畳んでおき、デッキブラシを片手にプールの中へと続く足掛けを下る。
「ギズモさんは向こうの方をお願いします」
「えー まだ半分も終わってないの?」
「私は几帳面ですからね」
どう言う意味、それ。
訊こうかと思ったけれど、具体的に言われそうだったのでやめておいた。
そもそも何故私たちがプールの掃除をさせられているのかというと、体育のレポートを忘れてしまったからだった。
万歩計をつけて一週間の運動量を記録、考察するレポート。
3日目くらいで万歩計をつけるのを忘れ、そこからめんどくさくなってやめてしまった。
「でも鬼鮫がレポート忘れるなんて、珍しいよね」
こんな嫌味な奴だけど、何事も波風立てずに無難にソツなくこなすタイプなのだ、鬼鮫は。
それでもガラの悪い人たちとつるんでるだけあって、血の気は少し多いけど。我関せずって態度して、実は思慮深くて虎視眈々ってのはイタチにも言える気がする。
「私にもそんな時はありますよ。明日にでも提出するつもりです」
「あのー、もし完成してるんだったらさー…」
「構いませんよ。高くつきますがね」
「……言うと思ったー」
思わず唇を尖らせる。
「じゃあペインにでも頼もーっと」って言ったら、ちょっと不機嫌そうな顔で睨まれた……ような。気のせいか。
それにしても、デッキブラシって意外と力いるんだな。
鬼鮫みたいにガッシガッシと擦り続けられない。
「話変わるけどさー、鬼鮫って泳ぐの上手そうだよね」
「まぁ、人並みよりは」
「じゃあ、あれ!バタフライとかできる?」
「できると思いますよ」
「やったことないの?」
「クロールだのバタフライだの、息継ぎしない方が速く泳げるでしょう?」
……確かに。
鬼鮫って魚よりカエルの仲間なのかも。
話しながら手が止まらないのは流石だなーと思いつつ、私は少し離れたところをやることにした。