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□はねて、おちて、とらわれて
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すっかり日が落ちた空にぽっかりと、そこだけ穴を開けたような月が浮かんでいる。
滑らかなその曲線形に、そういえば今日はピッタリ15日だった、と思い出す。兎がよく見て取れる、くっきりとした。



「上ばかり見ながら歩いていると転ぶぞ」

「だいじょーぶですよ!」



視線を少し下ろして、隣を歩く先輩に目を合わせる。口端が穏やかに上がったのがわかった。



「今日は本当にありがとうございました。柳先輩が手伝ってくれなかったら絶対終わらなかったと思います」

「俺は解き方を教えただけだ。課題を終わらせることが出来たのはお前自身のお陰だよ、ギズモ」

「へへ……ども」



先日の中間テストで大スベリしてしまい、全教科立て続けに悲惨な点数をたたき出したため、教科担任から課題を課されてしまった。

それを当然後回しにし、部長や副部長にもひた隠しにして部活と遊びにほうけていたところ、どういうわけかその事が副部長の耳に入り、こっぴどく説教された挙げ句、課題を完成させるまで部活参加一切禁止、という強制命令が下ったのである。


当初は「何とかなるだろう」とどこか楽観的に考えていたが、進めていくうちにその質と量に絶望し全くはかどらない。

解答・解説の冊子をどこかに紛失してしまったために、写すどころか答え合わせも出来ず、教科書を参考にしていくには面倒すぎる。


さらには、部活に顔を出さない私を不審がって、部長が直々に連絡を寄越す始末。
留守番電話に録音された声色は私を心配するものであったが、最後の『それ以上休んだらそれ、せっかく終わらせたとしても意味無くなるかもしれないよ』という意味深な一言が、さらに私を恐怖と絶望の淵に追い込んだ。
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