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□ゆく年くる年
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「小春ー、チャンネル変えてもええ?ガキ使見たいねんけど」

「アカン。今からATBが歌うねん」

「千歳さーん、アンテナの調子悪いみたいでWOWWOW映らんのですけど」

「いや、ウチそれ加入しとらんけん」

「え、そうなんスか。てっきりどこの家でも映るもんやと…」

「ってか、ウチNHKの受信料も…」

「「「え」」」





「もっと酒ないんかコラー!」

「ええ加減にしいや、明日頭痛うて寝正月になるで」

「知るかそんなん。お前はワシのオカンか!」

「ちゃうわ!あーもー酒くさ」

「蔵、金ちゃん奥の部屋に寝かしてくるね」

「ギズモ、おおきに助かるわ。こたつで寝てたら風邪引くしな」

「12時までみんなと一緒に起きといたる!!って頑張ってたけどね。結局9時ピッタリに負けちゃった」

「ゴンタクレも、寝てるときだけは静かやなぁ」



白石は、ギズモの背中ですやすやと寝息を立てている金太郎の髪を優しく撫でる。

ん…、と小さく身をよじる彼の姿に、ギズモも思わず笑みをこぼした。



「ハッハーッ、」

「何やねんオサムちゃん、また変な笑い方して」

「お前ら2人なかなかお似合いやなぁ思て」

「「は?」」

「金太郎まで入れたら家族みたいや。ギズモがオトンで白石がオカン」

「私女ですけど!?まぁ、蔵のオカン感は認めるけど」

「俺がそないにオカンっぽいかは知らんけど…俺も男やし、」



すると、白石はギズモから金太郎を抱き上げて代わった。



「やっぱりこれくらいはやらしてもらうわ。…って、金ちゃん重なったなー」

「あ、ありがと…大丈夫?」

「ギズモがおんぶ出来てたくらいなんやから。俺も平気や」



白石はニッコリと笑ってみせる。



「ヒューヒュー、仲良しやなぁ〜!」

「オサムちゃん、本当にやめ…!」

「この部屋の暖房いらんで!千歳、ストーブ消し…」



オサムが呼ぶより早く千歳がズカズカとやって来た。
しかしその先はストーブではなく、



「コンビニ行ってくるばい」



ズボンの後ろポッケに財布を乱暴に差し込んで、ギズモの手を取った。



「え?私も?!」



そのまま手を引いて玄関に向かう。



「ほんなら酒買うてきてくれー!」



オサムの声と共に、バタンとドアが閉まった。
















「……………」

「……………」



コンビニからの帰り道。ギズモと千歳は無言のまま歩いていた。

行きも、ギズモがいつものように話しかけても千歳は黙ったままで、店内に入れば掴まれていた手も離された。その間、会話も一切無く。


ちなみに、お酒は買えた。酷く面倒臭そうな若い店員は千歳の顔をチラッと見ただけで、大した年齢確認もせずに会計を済ませた。



離した手を、千歳は再び取ろうとはしない。

別に早歩きをしている訳ではないけれど、歩幅が大きい千歳と並んで歩いていると、うっかり距離が開いていきそうになる。
そんな時、彼はきまってギズモの顔を見て「…少し速いと?」ときいてくれるのだ。

今日の彼はそれすらしてくれない。
やっと、ふたりきりになれたのに。



「…千歳、」

「…………」



ギズモは袋を持っていない方の千歳の手を取って握った。彼からは握り返されない。
けれど、振り解かれることもない。



「…ごめんね」

「…………」

「今日、誕生日なのに嫌な気分にさせちゃってごめん…」



なんて言ったらいいのかわからなくて、ただ千歳の手を握る力を強めた。



「…………」

「………嫉妬、したとよ」



小さな声で千歳が呟いた。



「え…?」

「オサムちゃんが、ギズモと白石がお似合いとか言いよるけん…」



見れば、暗い中でも千歳の顔が赤くなっているのがわかった。



「あっ、いや、あれは違うからね!?あのおっさんが勝手にひやかしてただけだし!しかも泥酔状態の」

「俺も頭ではわかっとったと。ばってん…、」



言葉を紡ぐ代わりに、ギュッと千歳がギズモの手を握り返した。


なんだ。千歳も、私と一緒だ。
その言葉の先は、繋いだ手の平から伝わる言葉は、いつだって私のほしい言葉。



「…ふふっ、」

「な、何がおかしいとや?」

「ううん、やっぱ幸せだなぁって」

「何ね…、それ」



千歳が少し困ったように微笑んで、またすぐ真顔になった。

ゆっくりと、互いの顔が近づく。
今度こそ、唇が重なった。




そっと離れた時、周りの家々からにぎやかな祝い声が聞こえてきた。



「今年もよろしく」

「こちらこそ」



あけましておめでとう。
今年も良い年でありますように。




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(そのころの四天→)
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