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□ゆく年くる年
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「はー、やっぱ千歳の家落ち着くー」
「そうかー?」
千歳はストーブの電源を入れ、こたつに脚を伸ばした。先にこたつでくつろいでいたギズモはショップの袋を開けて、買ってきたものを取り出した。
「たくさん買ったねー」
「そうばいね」
今日・12月31日は千歳の誕生日。2人は朝からショッピングデートに出かけたのだった。
「でも…一番の買い物はこればい」
千歳は上品な袋に入った指輪をそっと取り出した。
ギズモの手をとって指にはめる。
「ほんと…きれい」
デートの最後に買ったおそろいのペアリング。
一緒に選んで買うのはちょっと恥ずかしかったけど、何より嬉しかった。
「ギズモ…、」
2人の間にだけ聞こえるような小さく低い声で名前を呼ばれてドキッとすると、すぐそばに千歳の顔があった。
ゆっくりと目をとじる。
千歳の髪の毛が額に触れた時──
「ちーとーせーーーー!!」
バァァァン!!と勢いよくドアが開く音と共に、ドタドタドタと足音が近づいてくる。
ギズモも千歳も慌ててお互いの身体から離れた。
「たんじょーびおめでとさぁぁぁぁーーんん!!」
足音の主・金太郎が、部屋に入ってくるなり千歳にダイブした。
「おわわわっ!」
体勢を崩した千歳が後ろに倒れ込む。
「金ちゃん何してんねんー!」
続いて白石や謙也等、おなじみのテニス部員たちが入ってきた。
「計画が台無しやんかー!…ん、ギズモ此処に居ったんかい」
謙也が、状況を理解できていないギズモに声をかける。
「何、これ…??」
「みんなで千歳くんの誕生日をサプライズでお祝いしよ、て話してたんよ。ギズモちゃんにもメールしたんやけど…」
小春に言われた通りケータイの受信フォルダを確認すると、確かにそういった主旨の内容のメールが入っていた。
「ごめん…気づかなかった……ってかあの、」
「まぁええわ。どうせお楽しみ中やったやろしな」
「ちょ、ユウジ!何かその言い方卑猥」
「まぁ、2人共この家に居ってくれたんで良かったんちゃいます」
「ほれ、金太郎はん。千歳はん困ってはるで」
銀が千歳の上に乗っかっている金太郎をヒョイっと持ち上げて退かす。
「なぁ、ビックリしたやろ?な!?」
「あ、ある意味な」
「せや、千歳。俺らいろいろ買ってきたんやでー」
言いながら白石はスーパーの袋を開ける。中から出てきたのはお菓子にジュース、千歳の好物の馬刺しまで。
「ほら、そこもっとつめて座りや」
いつの間にやら、部員たちはド厚かましくこたつに脚や身体を突っ込んでいる。
「謙也ー、牛すじ煮込み」
「おおきに!」
「光はぜんざいな」
「千歳さん、冷蔵庫借りますわ」
「ワイのたこ焼きはー?」
「ちょお待ちぃや」
白石は部員たちに順番に買ったごはんを渡していく。
「えっ、あの白石部長」
「どないしたんギズモ、そない改まって。照れるやん」
「照れんな。アンタら帰らないの?」
「まだ来たばっかりやで?冷たいなぁ」
「だってもうサプライズ終わったじゃん」
「何言うてんねん〜、俺らはただ千歳の誕生日祝いにきただけとちゃうねんで?」
「え」
「千歳の誕生日祝い からの→年越しオールナイトやで!!今日はみんなでこの家にお泊まりするねん☆」
「帰れえぇぇぇぇぇ!!」
ギズモは立ち上がって白石を出口のドアの方へ押しやった。
「ちょ、やめぇや!痛い痛い痛い!!」
「今日は私と千歳だけで大晦日の夜を過ごして一緒に新年の朝を迎えるの!アンタらが居たら2人っきりになれないでしょうが!!」
「それはわかるんやけどやな、もう遅…」
「いらっしゃぁぁぁぁーーい!!」
白石の弁解を遮ってまたもやドアがいきなり開き、酒臭さが一気に鼻をついた。
「元気にしとったかぁー!」
「じゃまするでー」
そこには、もう既に何処かで引っ掛けてきたらしく、出来上がっているオサムと、彼に肩を貸す小石川が居た。
ゴーン…ゴーン……
「あ、除夜の鐘鳴ってるなー」
「除夜の鐘って、何回つくんやっけ?」
「108や」
「お!さすが銀」
「何やケンヤ、そんなんも知らんかったん?」
「むっ…べ、別に!うるさいわ小石川」
「ちなみにその108て何の数字か知っとるか?」
「はぁ?んー……、あ、アレやろ、最初に除夜の鐘つき始めた坊さんの持ちギャグの数!」
「んなアホな!」
「煩悩の数や」
「ボンノウ…??」
「お前がよぉけ持っとるやつや」
「俺仰山持ってんのけ!?どや、羨ましいやろー」
「ホンマにアホやこいつ…」