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□俺の方が緑間より3センチ高い
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「な…、何してんだギズモ」

「あっ大坪さん」



部室の扉を開けた途端、青ざめた顔をする大坪泰介部長。



「ここの蛍光灯が切れちゃったので替えようと思って」

「いや…それは見ればわかるが……危ないだろ」



視線の先には、積まれた雑誌とその上に高めの椅子。
そこに今まさに私が脚をかけようとしている状態。



「大丈夫ですよー、てかこれでもまだ背伸びしないと届かないし」



よいしょ、と身体を乗せようとしたとき、不安定な足場がグラりと前に傾いた。



「ちょ、おい!」



刹那、大坪さんが止めに入る。
山からはみ出た雑誌が、床に滑り落ちた。



「俺がやるから」

「……それじゃあいつもと一緒じゃないですか…」

「何だ。いつもと一緒じゃ悪いのか?」

「…いま皆練習中ですし。私だってひとりのときにこれくらいの仕事は自分の力でやれるようになりたいんです」



いつも新しいタオルや冷えたスポーツドリンクが用意してあること。部室が綺麗で明るいこと。
そんなことが当たり前に感じてもらえるくらいじゃなきゃ、務まらない。

いちいち先輩や皆の手を煩わせてちゃいけないのだ。



「んー……ギズモの気持ちもわかった。………けどな、」



大坪さんが私の手から蛍光灯を取り上げる。



「あっ、」

「ギズモが無理して怪我しちゃ、俺たちの方がすっかりダメになっちまうからな」



それに、と続けながら大坪さんは雑誌の上から椅子を退かし、その上に乗って蛍光灯を取り外す。



「こういうのは頼ってくれた方が嬉しいんだよ。…俺もアイツらも」



易々と天井に手が届き、そのまま新しいものに付け替えてしまった。



「すいません……」

「何で謝るんだ。ギズモはよくやってくれてる」

「……………」

「自分にできることを精一杯やればいいんだ、何でもな」



大坪さんは雑誌から下り、私の頭を軽く撫でた。
手まで大きいのに、あんなに力いっぱいボールを掴んで投げるのに、私の球体に触れるときはこんなにも優しい。



「はい…頑張ります、私!」

「おう。………あー……それでな、ギズモ」

「…?」



大坪さんは少し言いづらそうに頬を掻くと、



「今度から……一人で困ってる時は、俺を呼べ。高い所の物を取る時でも、荷物持ちでも何でもやるから」

「え!いや悪いでッ…」



言いかけて、突然大坪さんが指で私の頬を両側から挟んだ。
さっきまでとは違う、少し強い力で掴まれて、私の口はタコみたいにすぼめた形になる。



「先輩の御厚意は無下にするもんじゃないぞ?」

「…は、はひ………」



よし、と満足そうに笑って手を離された。
ジンジンと熱がまだ残っている。



「んじゃ、これ捨ててくる」



挟まれた頬をさする私に背を向けて、大坪さんは使い終わった蛍光灯を持って部室から出て行った。


真ちゃんみたいなワガママだけど才能のある部員も、宮地先輩みたいな口は悪いけど努力家な部員も、上手くまとめる頼れる主将。
懐も深いし理解力もあるけど、



「たまに頑固だよね…」



まっさらな光を放つ蛍光灯を見上げながら、小さく呟いた。




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大坪さんの小説がもっとあってもいいと思うんです.

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