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静かな放課後の教室。
グラウンドからは、ラグビー部だろうか、選手たちの掛け声と共に女子たちの黄色い歓声が聞こえる。
ギズモは昼休みに徐倫たちと眺めていた雑誌を流し読みしながら、ふと傍の席に座る“彼”の手元が止まっているのに気がついた。
「…どこ?見せて」
誌面から顔を上げ、机に広げられたノートを覗き込む。
「……すまない…」
「あー…これ難しいもんね。まずここの値をxに置き換えるの。それで式を立てて…」
ギズモは彼のシャーペンを借りると、問題集とノートを照らし合わせながら順番に説明していく。
少しずつ解答を導いていけば、険しかった彼の表情が少しだけ緩んでいった。
「…で、いまの式でこの値が出たから、あとは公式に沿ってこれらを代入して、完了!」
「そうか…。やっとわかった、ありがとう」
「いえいえ。また何かわからないところがあったら遠慮しないで訊いてね」
「ああ」
そうしてまた空間に静寂が戻る。
在るのはシャーペンを走らせる軽やかな音と、雑誌をめくる微かな擦れ音。そして、風に乗って届くホイッスルの音だけ。
彼ーーウェザー•リポートはあまり勉強が得意ではない。
家の事情であまり学校には通えていなかったためらしい。
気が付けば学生らしい思い出や机の上での学習も彼には無かった。
ギズモがそのことを知ったのは彼と男女の付き合いを始めてからのことだった。
今までのウェザーの人生は決して不幸なものではなかったと思う。けれど、同じだけ生きてきたギズモにとって、学校生活の中で目や耳にしたもの、経験してきたことはかけがえのないものだった。
それらを彼にも持って欲しい。これからのかけがえのない時間を共有したいのだ。
将来働きたいと思っている彼のために、少し遅れ気味の勉強を教えることも自分の役目だとギズモは感じていた。