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□ひみつのよる
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夕方から振りだした雨は日付が変わった尚も止む気配はなく、外には人はおろか野良猫一匹うろつくものはない。
こんな土砂降りの中、こんな時間に、1人で傘もささずに他人の家に押しかける奴なんて相当のバカ野郎だ。
………それなのに…、
「…どうしたんだよ、こんな時間に」
「…………」
つい先程ギズモから電話があり、『…外に出てきてください』と妙に沈んだ声で言われた時は知り合いながらゾッとしたが、ドアを開けたら目の前に本人が立っていたのだから俺は思わずヒッと小さく悲鳴を上げた。
「いきなり来て黙ってちゃあワケわからないだろ」
「…………」
「…ハァ〜〜……おやす…」
ガシィッ!!
しびれを切らした俺が玄関のドアを閉めようとした瞬間、ギズモが勢いよく開閉の隙間に手をかけてそれを阻止した。
「ちょっ、おま…!」
睨み付けようと視線を向けた先で……ギズモは、泣いていた。
顔は雨を浴びてグシャグシャに濡れているが、そこに雨とは別の水滴が、ゆっくりと瞳の辺りから流れ落ちていくのを俺は確認してしまった。
「……っ、うーー…」
間もなくして、ギズモの眉がグニャリと下がったかと思うと唸るような声が出始めた。
同時に、無関係なはずの俺の顔からもサーッと血の気が引く。
「……な、何で泣くんだよ…」
「家出しでぎだんでずッ〜…!!」
ギズモは子供みたいに口を大きく開けて顔をゴシゴシと擦り上げた。
「は?……い、家出って…」
すっかり力が抜けてしまった。
高校生にもなって家出って…ガキか。そんなくだらない理由ならさっさと言え!
「…ズッ……、そういうわけで、今日は帰りたくないので泊めてください」
「な…!なにいってんだよ!!」
「間田先輩しか頼れる人いないんです!」
「仗助たちがいるだろ!」
「もう寝てるんですあの子達…。間田先輩ならまだ起きてると思って」
「お…、起きてたけど!俺の迷惑とかそういうのは…」
「明日の早朝には帰りますから!ご迷惑はお掛けしません、お願いします!!」
ブンッと頭を下げられた振動で雨粒が俺にまで飛び掛かる。
この野郎、とも思ったが、ここではねつけてやればこいつは本気で野宿でもするかもしれない。